抄録
【目的】 日本理学療法士協会の業務指針には、理学療法士は「リハビリテーション・医療の知識・技術についての動向等に関する情報収集、他の関連分野の知識、医療をめぐる問題等にも注意を払うなど、常に研鑽に励み、専門職としての資質を向上させるようつとめる」とある。理学療法士の専門性を向上させるには、専門領域の知識・技術はもとより、その理論の裏づけとなる基礎医学や一般学問である物理学等の知識も重要である。また、専門性を発揮して業務を遂行するには、同じく高い専門性を有する他職種との協働において、共通認識が必要なリスク管理・薬理学等の幅広い分野の医学的知識も要求される。今回、当地域で働く理学療法士・作業療法士において関連医学分野ならびに一般学問への関心について調査したので報告する。【方法】 K市K地域で働く理学療法士・作業療法士・言語聴覚士で組織されるK会の定期研修会(平成23年2月17日)に参加した会員40名にアンケート調査を実施した。質問項目は、属性および全国レベルの学会での発表および論文執筆への意欲についてと、知識・技術を高めたい分野として、「徒手療法・各種テクニック」「教育・指導方法」「解剖・生理学」「バイタル(救命)管理」「薬学・薬理学」「感染症学」「物理学」「情報処理・コンピューター」「統計学」「英語」の10項目を設定し、これらに対する関心について質問した。上記分野への関心については、「1=全く高めたいと思わない」「2=あまり高めたいと思わない」「3 =高めたい」「4=とても高めたい」の4尺度で回答を求めた。Freidman検定またはKruskal-Wallis検定にて統計処理を行い、統計学的有意差を5%とした。回答項目に不備のなかった理学療法士21名、作業療法士16名、言語聴覚士1名の回答を検証した。言語聴覚士は職種別の検証からは除外した。【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に沿い、アンケート回答者に対し口頭および文書にて研究趣旨を説明し、同意の得られた者のみ対象とした。【結果】 全体で、知識・技術を高めたい分野については、「徒手療法・各種テクニック」(中央値4)、「解剖・生理学」「バイタル(救命)管理」(中央値3)の順に多く、「物理学」(中央値2)「統計学」(中央値2.5)が低い数値となった(P<0.001)。職種別では理学療法士が作業療法士に比べ「解剖・生理学」について高めたいとする回答が多かった(P<0.01)。有資格年数別では5年以上が5年未満に対して、「情報処理・コンピューター(P<0.01)」「教育・指導方法(P<0.05)」「統計学(P<0.05)」の3項目で高めたいとする回答が多かった。医療施設と介護施設とでは有意差が見られた分野はなかった。全国レベルの学会での発表および論文執筆への意欲別では、全国レベルの学会での発表および論文執筆への意欲が低い層に「バイタル(救命)管理(P<0.005)」「感染症学(P<0.005)」「徒手療法・各種テクニック(P<0.05)」「薬学・薬理学(P<0.05)」を高めたいとする回答が多かった。【考察】 全体で「物理学」「統計学」よりも「徒手療法・各種テクニック」への関心が高く、とりわけ理学療法士に「解剖・生理学」の知識を高めたいと考える回答が多かったのは、専門分野に対する向上意欲の現れと、理学療法士の専門性が作業療法士よりも、解剖・生理学の知識の向上が専門性を高めることに直結することを反映していると考える。5年以上の有資格者に「情報処理・コンピューター」「教育・指導方法」「統計学」の知識を高めたいとする傾向は、事務作業のIT化ならびに後進指導や臨床実習指導、管理業務において必要な分野であることが推察される。全国レベルの学会での発表および論文執筆への意欲が低い層のほうが、「バイタル(救命)管理」「感染症学」「徒手療法・各種テクニック」「薬学・薬理学」について高めたいとする回答が多かった理由については、理論的な背景を重視する研究的な観点からすれば、「徒手療法・各種テクニック」にはエビデンスが不明確なものも多いため関心を引きにくい可能性があること、研究テーマによっては、関心の対象が専門領域の狭い範囲に限定され、実地的な幅広い知識が求められる臨床活動とは異なる背景であることが推測される。今回、対象が地域の臨床活動を中心にしている会員が所属する勉強会であったことは結果において重要な要因であると考える。今後、理学療法士における関連医学分野ならびに一般学問への関心についてさらなる検証が必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】 理学療法士および作業療法士における専門業務に付随する関連分野への関心についての知見および今後の課題を本研究を通して提示した。