理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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テーマ演題 口述
専門職連携協働を可能にする教育の実践と試み
─チーム演習「総合ゼミ」の実施をとおして─
押木 利英子古西 勇星 孝永井 洋一真柄 彰
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キーワード: 連携教育, 多職種連携, IPE
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p. Gc1037

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抄録

【はじめに、目的】 高齢化に伴い地域医療、チーム医療の重要性が求められているが、実際には他専門職に対する偏考や職務のルーチン化により必要時に必要な連携が取れないという問題が明らかになってきている. 「乏しいコミュニケーション」は現代学生の特徴であると同時に、臨床においても専門職間の連携・協働を阻害する要因としてあげられる. 専門職間の表面上の関係や内部的に抱える複雑な相互関係に対する柔軟な対応力を育成するために、医師、看護師、栄養士、PT、OTなど専門基礎教育の段階から専門職連携教育(Inter-professional Education:IPE)を導入する教育機関が増えている。本学でも2000年よりIPEの導入に努めてきた. そこで、本研究では4年次に開講されるチーム演習「総合ゼミ」を軸にして本学のIPEを紹介するとともに、「総合ゼミ」がIPEとしての教育目標を達成しているか、および、実施上の問題点の所在を明らかにすることを目的として履修学生に対して質問紙調査を行ったので報告する.【方法】 質問紙調査は、学生を対象にして履修後1週間以内の感想を、履修してよかったこと、反省点、改善の必要な点に分けてWeb経由で行った.テキストマイニング用ソフトウェアSPSS Text Analytics for Surveys Ver. 4.0.1で解析してキーワードを抽出し、カテゴリーを形成した.有効回答数は履修者178名中34名(回収率19.8%)であった.【倫理的配慮、説明と同意】 使用した個人情報については、ヘルシンキ宣言に基づいた規定に遵守し、学生本人に書面と口頭にて研究の目的、方法、個人が特定されないことを説明し同意を得た. なお、本学倫理委員会にて承認を得ている.【結果】 IPEを実現するためには、大学としての理念の確立、教職員間の理解と連携が不可欠である. 新潟医療福祉大学では、これらの課題を打開しつつ専門職間連携の理解と実践のために、コアカリキュラムの導入と確立に努めてきた. 本学のコアカリキュラムとして全学科共通で4年間に履修できる19科目が配置され、4年次に開講される「総合ゼミ」は本学の連携教育の総仕上げとして位置づけられている. 「総合ゼミ」は「QOLサポーターの育成」を目標にして2004年より実施されている. 当初は小規模、未認定科目であったが、2008年度には単位認定選択科目となり、2011年度は9月第3週の5日間集中演習として、21事例、学生10学科200名、教員59名の構成で実施した.事例提示→支援策の協働立案という基本的な授業スタイルは変わらないものの、その方法や構成は年度ごとに改良を加えている.質問紙調査の結果として、参加してよかったと感じた点に関して以下のようなカテゴリーが得られた.数値は回答数,カッコ内は回答数に対する比率を示す.(1)他職種の専門性の理解とその尊重:19(55.9%)(2)事例をめぐる連携の必要性の理解:12(35.3%)(3)履修内容への積極的関与:11(32.4%)(4)自分の職種の専門性の理解:6(17.6%) (5)グループ内の対人関係等に関する態度:6(17.6%) 反省・改善を必要とすべき点に関しては以下のようなカテゴリーが得られた.(1)自分の学科・職種に関する知識不足:8(23.5%) (2)討論や意見収集、まとめの表現法:7(20.6%) (3)時間不足:6(17.6%) (4)教室の環境(広さや設備など)の不備:3(8.8%)【考察】 「総合ゼミ」は今年で8回目となった.モジュールの開発や遠隔地通信システムの活用により、他大学との連携や多くの学生を対象にした演習が可能になった.現在もまだその試みは継続中である.質問紙調査の結果ではIPEにおいて重要とされる他職種の理解や事例に関する連携の必要性の理解について相応の結果が得られた. しかし、自職種の理解についての認識は低く、自分の知識や準備の不足に関する反省もあった.最終学年の学生に「他者を知ることは自分を知ること」のことばのとおり再度自職種の認識を高め、知識や技術を高める内的欲求の創出が必要という課題が明確になった.また、グループ討議用の施設・備品などの環境に関する不満も挙げられた.多くの学生と教員で構成される演習には教員のFDとハード面の整備の重要性を改めて確認した.【理学療法学研究としての意義】 医療連携・協働ができ、チームの一員として自覚と責任ある行動が取れる理学療法士を育成することによって、多様な理学療法のニーズに答えることができ、社会的認知度を高め、理学療法士の質の向上に寄与できると考える. そのためには理学療法士資格取得のための教育(基礎教育)の段階からアウトカム基盤型教育、すなわち卒業時に何ができる(コンピテンシー)ようになるかを定め、それを達成するように学年計画性をもったIPEのカリキュラム編成と実施が重要である.

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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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