理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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臨床思考図を用いた症例検討会が発表者と聴講者双方の臨床推論および推論伝達に与える影響
山下 昌彦玉利 光太郎
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p. Gd1478

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抄録
【目的】 症例検討の教育的目的は,症例個々の問題点を把握し最適な理学療法を実施できる能力の育成にあり,臨床では新人理学療法士(以下,新人PT)を対象に卒後教育の1つとして行われている.意義ある症例検討を行うには,周囲のセラピストが新人PT の臨床推論(以下,推論)過程および問題点を把握し適切な推論教授を行う相互方向性のやり取りが極めて重要であり,そのためには推論過程の外在化(思考を頭の外に出す)と可視化(見える形にする)が必要とされる.しかし論述形式の報告書を用いる従来の症例検討(以下,従来型)では,新人PTの語彙力や表現力の問題により,その推論過程を周囲が把握することが困難な場合がある.近年,学習者がキーワードを分類し関連付け知識の構造把握を進める「概念図法」や,中心概念から思考を放射状に広げることで創造的思考を行う「マインドマップ」など,作図を用いた方法の有用性が報告され,先行研究にて作成者のメタ認知能力を促進することが報告されている.しかし作図を用いた方法が,第三者にとって発表者の推論過程をより把握しやすくさせるかどうかは明らかになっていない.当院では症例検討会において,臨床的視点をキーワードとして整理し関連付けたマップ(以下,臨床思考図)を作成・利用している.今回は,この臨床思考図の有用性を従来型と比較することを目的として以下の調査を行った.【方法】 対象は平成22,23年に症例検討会にて発表した新人PT9名と,参加した2年目以上のPT(以下,聴講者)22名とした.新人PTはマッピング作成ソフト(X-mind)を用いて臨床思考図を作成し症例発表を行った後,新人PTおよび聴講者双方にアンケートを実施した.アンケート項目は「自分が推論を行う」「相手の推論を知る」「自分の推論を相手に伝える」の3項目とし,従来型と臨床思考図を比較した場合,どちらがより有用に感じたかVASを用い測定した(-5cm~+5cmと表記された長さ10cmの直線上にチェックをする.+方向は臨床思考図,-方向は従来型を有用と感じていることを示す).また,同様のアンケート項目を用いた臨床思考図の有用性に関する質問3項目について「有用と思わない」「どちらとも言えない」「有用と思う」の3件法および自由記載形式にて評価した.新人PTおよび聴講者のVASは一標本t検定,3件法はχ2検定で比較し有意水準は5%とした.【説明と同意】 新人PTと聴講者に本研究の目的を説明し,紙面にて同意を得た.【結果】 聴講者は「自分が推論を行う」「相手の推論を知る」「自分の推論を相手に伝える」すべての項目において有意に臨床思考図の方がよいと評価していた(p≦0.001).一方新人PTは,すべての項目において臨床思考図と従来型の両者に差は無いと評価していた(p≧0.790).臨床思考図の有用性については,聴講者はすべての項目において臨床思考図は有用との回答が得られた(p≦0.012).一方新人PTは「自分が推論を行う」には全員が「有用と思う」と回答し,「自分の推論を相手に伝える」には,どちらとも言えないとの回答が得られた(p=0.705).【考察】 結果から症例検討にて臨床思考図を用いることは,特に聴講者にとって有用であった.これは従来型の場合,新人PTが推論に結び付けられていない項目も記載されるのに対し,臨床思考図で記載のない部分は未知概念であることを知ることができたこと,そして語彙力に左右されず新人PTの臨床思考や問題点を把握できたことが要因と考えられる.また新人PTが臨床思考図を作成する過程で自己の臨床思考を整理するという点においても有用と考えられた.これらは臨床思考図の大きな利点であり,作成者のメタ認知を促進し第三者が推論過程を把握する上で有用なツールとなり得る可能性が示唆された.一方,自己の推論を他者に伝えるためには,キーワードの関連を更に昇華させ言語化する必要があると考えられ,従来型のように文章化し表現する必要性が示唆された.以上のことから症例報告においては,臨床思考図と従来型双方の利点を活用することが重要と考えられた.【理学療法学研究としての意義】 臨床教育において新人PTの臨床推論を養うには,新人PTと援助する周囲のセラピストが双方向の関係を築くことが重要であり,その為には互いの思考を引き出すツールが必要である.本調査の意義は,臨床思考図か従来の論述かという二項対立ではなく,意義ある症例検討を行うには両者の利点を用いることの重要性を示唆した点にあると考える.また,臨床教育は新人教育と臨床実習教育を包括するという視点で考えると,本研究結果を臨床実習指導に活用できる可能性があると考えられる.
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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