理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
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臨床実習生を対象としたコンピテンシー評価の特性把握
小林 武三木 千栄吉田 忠義高橋 一揮村上 賢一武田 涼子佐藤 洋一郎横塚 美恵子黒後 裕彦藤澤 宏幸
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p. Gd1479

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抄録
【はじめに、目的】 臨床実習生の資質・適性を把握する方法は、各養成校のカリキュラムポリシーに添って種々工夫されている。当校では、臨床実習中の行動特性・情意領域の把握とそれらの適切な変容へのアドバイスツールとして活用する目的で、平成20年度からコンピテンシー評価を取り入れた。コンピテンシーとは「ある職務において効果的かつ優秀な成果を発揮する個人の潜在的特性で、動機、特性、技能、自己像の一種、社会的役割、知識体系などを含む」と定義(Boyatis、1982)されており、「職務上の高業績と結びつく知識、技能、能力、その他の特性」(Mirabile, 1997)といった表現で理解されている。本手法を取り入れた臨床実習カリキュラムが2学年分終了した現時点で、コンピテンシー評価各項目の学生の到達率を把握すること、そしてコンピテンシー評価表を使用して臨床実習指導を行った指導者の意見を集約することで、コンピテンシー評価各項目の特性について把握することを本研究の目的とした。【方法】 対象は当校の現4年生と昨年度の卒業生の中で全ての臨床実習を終えることのできた学生130人と、彼らを総合臨床実習で指導した臨床実習指導者とした。当校の臨床実習体系は2年後期に2週間の「見学・体験実習」、3年後期に6週間の「評価実習」、そして4年前期に10週間の「総合臨床実習」が配置されている。コンピテンシー評価は武蔵野赤十字病院の医療者用人事考課評価表を理学療法の臨床実習用に文言改変し使用した。内容は大項目として『態度』と『基本的技能』の2つから成り、『態度』はさらに[社会性・接遇]5項目、[共感・感性]2項目、[対象者の尊重]4項目、[性格]3項目、[実習生・職員との協調性]2項目、[倫理性・使命感]5項目、[規律性]3項目、そして[責任感]と[積極性]、[向上心・自己啓発]が各1項目、『基本的技能』は[インフォームドコンセント]2項目と[コミュニケーション力]4項目の全33項目から構成されている。全33項目はそれぞれ操作的に定義された3~4段階順序尺度の選択肢で構成され、各臨床実習の最後に実習指導者により評定された。最終学年の総合臨床実習終了後に学生と指導者それぞれにアンケート調査を実施し、その自由意見記載欄の記載項目を抜粋しまとめた。【倫理的配慮、説明と同意】 コンピテンシー評価の使用とその活用方法について、学生と指導者それぞれに各臨床実習開始前に予め説明・通知した。【結果】 全臨床実習を通して実習生の75%以上が最高点に到達した項目は[社会性・接遇]項目の中の「身だしなみ」と「時間厳守」の2項目、「実習生・職員との協調性」、そして[規律性]項目の「公私の区別(人間関係)」と「公私の区別(物品)」の全5項目であった。総合臨床実習終了時点だけをみると、上記5項目に加えて[社会性・接遇]項目中の「あいさつ」、[共感・感性]項目の「共感的な聞き方」、[対象者の尊重]項目の「対象者情報の守秘」、「責任感」、そして[倫理性・使命感]項目の「組織人としての自覚」の5項目も最高点到達率が75%以上となった。逆に全ての臨床実習を通して20%以下の実習生しか最高点に到達できなかった項目は、「倫理性・使命感」項目に含まれる「使命感」と「社会的正義」、「組織人としての自覚(言動への配慮)」、「組織人としての自覚(組織人として役割)」の4項目と「コミュニケーション力」項目に含まれる「自分の考えを伝える」項目の全5項目であった。アンケート調査では「実習生の人間形成の教育に活用しやすかった」と「情意面の多角的な評価ができた」というような肯定的意見と、「社会人としての理学療法士には適する」が「学生に求める内容として高度すぎる」あるいは「学生には不適切な項目がある」等の否定的意見とがほぼ半々であった。また、1~5%の学生で空欄となっていた項目があり、それらは最高点到達率も低い傾向にあった。【考察】 基本的な社会性や接遇に関わる項目で最高点到達率が高かったが、積極性や向上心・自己啓発、コミュニケーション等に関する評価は低かった。これらは学生に要求する内容としては高度すぎるという可能性もあるが、養成校あるいは臨床実習教育で完結するものではなく、職業人となってからも意識的に継続して高めていくべきコンピテンシーなのだと考えられた。理学療法士としての使命感と社会的正義に関しては、それ自体が多様な価値観を含むと考えられることから、指導者が自信を持って評定できなかった可能性もあるのではないかと思われた。【理学療法学研究としての意義】 本研究で使用したコンピテンシー評価は卒前教育での学生評価だけでなく、卒後教育にも継続して使用することで理学療法士の情意領域の成熟状態を評価できる可能性が示唆された。
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© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
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