抄録
【目的】 学生による授業評価は,教材や教育方法に対する改良の契機となり学生の満足度を高める有効な手法である.このため人事評価と連動した形で授業評価を行う教育機関も増えてきている.教育効果の判定という点では,授業が知識・技術の習得を目的とする以上,最終的には学生の試験成績が重要な判定基準であるといえる.先行研究では,学生の基礎学力,学習意欲,教員の授業内容などが試験成績と関連するとされている.一方で,授業の満足度を単純に点数化した授業評価と試験成績との間には関連がみられない.教育的介入という視点では,試験成績と関連する個別の情報を授業評価という手法で簡便に取得できるならば,個人に対して具体的なフィードバックが可能になるであろう.そこで,今回,試験成績との関連が報告されている学習意欲,教員の授業内容の項目を授業評価に組み込んだ上で,試験成績と関連する学生による主観的授業評価項目を明確にすべく研究を行った.【方法】 対象は,当校理学療法学科第3学年42名であった.性別は男性27名,女性15名,年齢は22.3±3.5歳であった.平成23年度前期授業である理学療法技術論「切断の理学療法」を対象科目とした.15回の授業実施後に記名式のアンケートによって学生による主観的授業評価を実施した.項目は学習意欲に影響すると考えられる授業の満足度,難易度,集中度に関する5項目(授業は楽しかったか,授業は役に立ったか,授業を受けて切断患者のリハビリテーションに興味を持ったか,授業は難しかったか,授業中に眠くなったか)と教育手法や教材の適切さに関する5項目(説明は分かりやすかったか,プレゼンテーションはよかったか,資料は見やすかったか,資料はあとで見返して勉強しやすかったか,実技の説明は意味があったか)とした.項目の評価は1~4点の4件法で実施した.試験成績は当該授業の前期本試験成績を用い,標準化のため偏差値に変換した.偏差値と主観的授業評価の各項目との相関,主観的授業評価の項目間の相関はspearman’s testを用いて解析した.偏差値を従属変数,偏差値と相関がみられた項目を独立変数としてステップワイズ重回帰分析を実施した.統計処理はSPSS ver15.0J for windowsを用いた.有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づいて研究の趣旨および方法,個人情報の厳守について対象者に説明し同意を得た.【結果】 1.偏差値と各主観的授業評価項目との相関.授業の難易度を反映する「授業は難しかったか」と授業への集中度を反映する「授業中眠くなったか」という2つの項目で偏差値と有意な逆相関を認めた(r=-0.37, -0.53; p<0.05).その他の項目では有意な相関が認められなかった.2.偏差値を従属変数,「授業は難しかったか」「授業中眠くなったか」という2項目を独立変数としたステップワイズ重回帰分析.選択した2項目と有意な相関がみられた項目は独立変数に選択されていなかった.また,VIFは2項目共に1.04であり,多重共線性の問題は存在しなかった.解析の結果,「授業は難しかったか」「授業中眠くなったか」の2項目が規定する因子として抽出された(p<0.01, R=0.64, R2=0.41).標準偏回帰係数は「授業は難しかったか」は-0.32,「授業中眠くなったか」は-0.5であり,影響度は後者のほうが大きかった.【考察】 本研究では「授業は難しかったか」「授業中眠くなったか」の2項目が試験成績と関連しており,影響度は後者の方が大きかった. 主観的に授業を難しいと感じ,眠くなってしまう学生は試験成績の悪化が危惧されるといえるであろう.早期の授業評価により,これらの状況を把握することが有益な個別の介入に繋がると考えられる.授業手法としては,学生が授業への集中度を保てるように配慮し,適切な難易度であると感じられるよう構成することが重要であろう.授業の難易度と集中度は学習意欲と関連すると推測される.学習意欲は内的,外的な動機づけと深く関与するため,自己効力感やローカスオブコントロールと試験成績との関連も今後調査が必要と考えられる.先行研究と同様に,授業満足度と試験成績には関連がみられなかった.授業評価を人事考課と連動させる場合,学生の主観的満足度で判断すると教育効果を正しく反映していない可能性がある.【理学療法学研究としての意義】 本研究は,授業の難易度や集中度に関する学生の主観的評価が試験成績と関連することを示した.理学療法士養成校における授業評価の手法を構築するにあたり選択すべき項目を示したという点で有益な知見であると考えられる.