抄録
【はじめに、目的】 当院は、高齢化率30%を超える千葉県安房地域の中で半径50km圏内の急性期医療を担っている。しかし、後方施設が少ない地域にあるため、急性期以外の自宅退院待機、回復期転院待機、施設転帰待機などの患者を多く抱えており、そのことが当院の急性期病床を圧迫している。急性期病院としての医療を適切に実施するためにはスムーズな退院や転院を促していく必要がある。そこでのリハビリテーション(以下、リハ)部門の役割としては、リスク管理をしながら入院後早期よりリハ介入が可能な環境を整備し、さらに介入時間を増加させることにより退院を阻害する因子を早期から排除することが求められる。当院では、入院後早期からの積極的なリハ介入と早期離床、早期ADL拡大、チーム医療の推進を目的に、2011年6月より神経内科病棟において病棟専従リハスタッフ(主に病棟内でリハを実施するスタッフ)の配置・増員を365日体制で開始した。今回、この効果について検討したので報告する。【方法】 対象は、病棟専従リハ配置前の2010年6月から10月に当院神経内科病棟に入院した急性期脳梗塞患者113名(以下、専従前群;男性59名 女性54名 平均年齢77.1±12.9歳)、病棟専従リハ配置後の2011年6月から10月までに同病棟に入院した急性期脳梗塞患者59名(以下、専従後群;男性39名女性20名 平均年齢74.6±10.4歳)とした。調査項目は、入院からリハ処方までに要する日数、総実施単位数、在院日数、PT実施期間、初期評価時と最終評価時のFunctional Independence Measure(以下、FIM)の運動項目の利得とした。統計的検討は、専従配置前後での比較としてMann-WhitneyのU検定(有意水準0.05)を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 当院の規定にしたがい、個人情報の保護に努めることを条件に本研究実施の承認を得た。【結果】 入院からリハ処方までに要する日数は、専従前群は平均2.4±3.0日、専従後群は平均1.2±0.7日であり、専従後群で有意に短かった。また、総実施単位数は、専従前群は平均71.7±73.1単位であったのに対し、専従後群は平均97.7±101.6単位で有意に多かった。在院日数は、専従前群は平均27.8±24.5日であったのに対し、専従後群は平均20.4±18.7日で有意に短かった。さらに、PT実施期間は、専従前群は平均24.2±23.9日であったのに対し、専従後群は平均18. 3±19.2日と有意に短かった。FIM運動項目の利得は、専従前群は平均17.6±19.5点であったが、専従後群は平均25.0±25.1点と有意に高かった。【考察】 病棟専従リハスタッフの配置により多職種との連携が密になったため、入院後早期からのリハ適応患者の吸い上げが可能となり、入院からリハ処方・介入までに要する日数の短縮につながったと考えられる。また、病棟内でリハを実施し看護師との連携が高まったこと、さらにリハスタッフの増員と365日体制の構築により総実施単位数が増加した結果、急性期脳梗塞患者が早期からADLを拡大しつつ在院日数の短縮を促進できたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 現在の医療は専門分化がすすみ、急性期医療に関わるスタッフは多職種に及ぶ。病棟専従などの診療体制を策定することにより、早期からの重点的なリハ介入と多職種からなるチーム医療の両立を推進し、質・量的にも充実した医療の提供が可能となる。その結果、機能回復の促進、在院日数の短縮など社会のニーズに貢献すると考えられる。本研究は、これらの急性期リハの有効性を示すものといえる。