理学療法学Supplement
Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
会議情報

専門領域 口述
セラピストの臨床経験年数と運動FIM利得・効率との関連性
河﨑 靖範槌田 義美山鹿 眞紀夫飯山 準一
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. Ge0075

詳細
抄録
【目的】 リハビリテーション(リハ)の技術に関する研究において、セラピストの臨床経験年数は、リハの治療成績に影響しない報告が多い。しかし今回、脳血管障害(CVA)患者リハにおいて、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)の経験年数の多少によって、CVA患者のリハの治療成績に違いがあるかを、ADL指標であるFIM運動項目を用いて明らかにすることを目的にリハの質について検討した。【方法】 平成19年4月~平成21年3月(2年間)に回復期リハ病棟を退院したCVA患者354名(年齢71±13歳、男性216名、女性138名、発症から入院までの期間23±16日、リハ期間82±35日、入院時運動FIM得点41±25点、退院時運動FIM得点65±25点、自宅復帰率66%)を担当したPT(経験年数3.8±2.8年)、OT(経験年数3.6±2.6年)を対象とした。評価尺度は、運動FIM利得(退院時運動FIM得点-入院時運動FIM得点)と運動FIM効率(運動FIM利得/リハ日数)として、A.単回帰分析、B.重回帰分析、C. 層別化した単回帰分析の3つの解析方法を用いた。組み合わせは、(1)移乗・移動・階段(PT 5項目)のFIM利得・効率とPT経験年数、(2)食事・整容・清拭・更衣・トイレ動作・排尿管理・排便管理(OT 8項目)のFIM利得・効率とOT経験年数、(3)運動(PT+OT13項目)FIM利得・効率とPT+OT経験年数の3つとした。【倫理的配慮】 本研究はデータ抽出後、集計分析した後は個人情報を除去し、施設内の倫理委員会の審査を経て承認を得た。【結果】 層別化した単回帰分析において、運動FIM利得を評価尺度とすると、PTの経験年数は、中等度障害患者(入院時の移乗・移動・階段各項目のFIM得点が3・4点)と弱い正の相関(r=0.3、回帰係数0.42)を認めた。重度障害患者(入院時の移乗・移動・階段各項目のFIM得点が1・2点)および軽度障害患者(入院時の移乗・移動・階段各項目のFIM得点が5・6・7点)との相関はなかった。OTの経験年数は、相関が認められなかった。運動FIM効率を評価尺度とすると、PT、OTの経験年数と相関は認められなかった。また単回帰分析および重回帰分析においては、相関が認められなかった。【考察】 FIM運動項目において、理学療法における移乗動作は、上肢機能の回復や高次脳機能障害も関係する。移動と階段動作の改善に関しては、歩行を中心とした下肢機能の向上が必要であり、下肢筋力がつかないと歩けない。作業療法は、主に巧緻動作を含めた上肢機能や高次脳機能障害、ADLの改善を目的とするが、動作の難易度が高くなると下肢・体幹機能が関与する。理学療法動作は作業療法動作と比べて動作項目が少なく、リハ目的が明確で単純なことが、FIM利得の向上につながったのではないかと考えられた。PT経験年数の効果が中等度障害患者にみられた理由としては、重度障害患者はリハ効果に乏しいと思われ、軽度障害患者はFIM得点の天井効果が影響しているのではないかと考えられた。下肢筋力や歩行の向上などの単純な動作の改善には、セラピストの経験の多少によって患者の意欲の引き出し方に差があるのではないかと思われた。経験によって知識が増え、動作獲得可否の判断は的確になり、動作獲得のつめの技術が上がり、応用力も高まるのではないかと考えられた。予後予測や先を見据えた理学療法プログラムの組み立てや進行など臨床経験を積むことによって能力も高めていると推察された。技術とみなしたPTの臨床経験年数と中等度障害患者の移動を中心とした下肢機能のFIM利得に弱い相関がみられ、ADLの改善度は経験年数が多いほうが少し高いのではないかと推察された。今回は、統計学において限られた条件設定の中で判断しているので、訓練内容、セラピスト個人の能力、患者の意欲、セラピスト以外のリハの提供、リハ期間、病巣と言った背景因子を数値化していないことが研究の限界と考えられた。またセラピストや患者の背景因子について更に検討することや、運動麻痺の機能的な改善を含めてどの指標を用いるとリハ技術を適切に評価できるかについても検討する必要がある。今後も訓練技術を高める工夫と、適切なリハを行うように部門の教育体制をより充実することがリハの質の向上に必要であると思われた。【理学療法学研究としての意義】 経験年数を技術とみなしたADLの改善度は、経験年数が10年目位までは経験年数が多いと少し高いことが示唆された。
著者関連情報
© 2012 公益社団法人 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top