抄録
【はじめに】カテーテルインターベンション(PCI)の発達に伴い、単枝冠動脈バイパス術(CABG)が減少し、多枝病変に対するCABGが相対的に増加している。しかし、CABG(6枝)に対する心臓リハビリテーション(CR)の経過についての報告は少ない。また、統合失調症を有する患者におけるCRについての報告も少ない。今回我々は統合失調症を有する重症3枝病変患者にCABG(6枝)を施行した症例に対し、当院プロトコールを実施する機会を得たので報告する。【症例紹介】40代、男性、身長168cm、体重50kg、自宅内ADLは自立していたが、軽労作で息切れや疲労が出現。下腿・顔面浮腫、食欲不振が出現し入院となった。既往に統合失調症あり。術前の心エコー検査ではEF37.2%、LVDd/Ds:56.7/47.7mm。CAGにてLAD#6total、LCX#12distal total、LCX#14a total、LCX#14b total、RCA#2 99%、RCA#3 75%、RCA#4AV totalの3枝病変を認め、6枝CABG施行。バイパスはLITA‐LAD#10・#8、RITA‐RCA#4、RA‐LCX#14a・#14b、SVG‐LAD#9と吻合し、大動脈遮断時間は162分。【説明と同意】各種データに関しては、個人が特定されないよう十分な注意のもと学会発表等で利用させて頂くことを家族へ説明し同意を得た。【経過】術後覚醒の遅延と肺炎を認め、術後2病日に抜管。3病日よりCR開始、JCS1-3、血圧103/56mmHg、脈拍110回/分、O24L投与下でSpO298%。血液検査はWBC13.4 mg/dl、Hb9.9mg/dl、CK405 mg/dl、CRP13.28mg/dl。ADLはBathel index(BI)20点。術後、最高血圧80台と低値であり、補液・輸血、カテコラミン・ノルアドレナリンを投与した。背臥位でも最高血圧が低下することがあり、血行動態・呼吸状態・自覚症状などをモニタリングしつつ離床を進めた。CRは、ベッドアップ、端座位保持、起立・歩行練習を行い動作面の改善を促すと共に、呼吸法・自己排痰法を指導し、二次的肺合併症の予防・改善に努めた。6病日より歩行練習を開始、9病日に点滴台を使用し200m歩行、11病日に病棟ADL自立、12病日に手摺を使用し階段昇降が可能となった。その後は病棟内でのself exerciseやself careの指導を行うことで退院後の自己管理の啓蒙を図り、15病日にCR目的に転院となった。転院時、意識清明、血圧120/85 mmHg、脈拍100回/分、SpO299%、体重49kg、心エコー検査では、EF50.9%、LVDd/Ds:52.1/39.7mm、血液検査はWBC6.9mg/dl、Hb13.3mg/dl、CK47.0mg/dl、CRP0.22mg/dl。ADLはBI 90点。6分間歩行は350m、TUGは11.20secであった。【考察】当院ではプロトコールを定め、CRを実施している。本症例では周術期において血圧が低値を示し、補液、輸血、強心剤の投与を実施していた為、弾性包帯の使用、四肢末梢運動により静脈灌流を促進し離床を進めた。当院での待機CABG単独手術の術後平均在院日数は12.1日。複数施設での術後歩行自立日数の報告によれば、待機手術・on pumpCABGでは6.3±3.5日であった。本症例においても術後在院日数は15病日、病棟内歩行自立の目安にしている200m歩行の日数は9日と術後離床・歩行練習の開始は遅延したが概ね良好な経過を得ることができた。統合失調症による妄想などの出現が心配されたが、投薬によりコントロールされ、離床の大きな問題にはならなかった。術後の理学療法介入の遅延因子として、術後合併症、心房細動、疼痛、高齢、女性、緊急手術、大動脈遮断時間、術前心機能、術後不整脈などが報告されている。本症例においては、術前のEFが37.2%と術前心機能の低下を認めていたものの、その他の遅延因子を有していなかったことから、術後の離床が順調に進行したものと思われた。【理学療法学研究としての意義】CABG(6枝)患者のCR経過について報告した。手術や術後の管理が進歩して、安全にCABG後の理学療法が実施できる様になったが、高齢者や重症者など、患者の障害像は複雑化している。本症例は、先行文献の示す遅延因子の該当が少なく、通常のCAGB後患者と遜色ない経過をたどった。多枝CABGのCR報告は少なく、今後、症例を蓄積し年齢・手術操作・時間などによる影響の考察を進めていきたい。