抄録
【はじめに、目的】 国際リンパ学会(以下ILS)におけるリンパ浮腫の保存的治療は、スキンケア、用手的リンパドレナージ(以下MLD)、圧迫療法、運動療法を行う複合的理学療法(以下CDP)が標準治療とされている。中でも2008年にリンパ浮腫指導管理料の算定開始、弾性着衣・弾性包帯の療養費払いが認められるようになり、注目が集まっている。 リンパ浮腫のうちがんの進行、再発、転移により発症するものは悪性リンパ浮腫と呼ばれており、CDPは適応とされているが、効果は十分に検討されておらず治療法が確立されていないのが現状である。今回、がんの再発・転移なしのリンパ浮腫と悪性リンパ浮腫のCDPについて検討した。【方法】 対象は平成23年4月から24年3月までに当院でCDPを実施した下肢リンパ浮腫患者、全60例とした。方法はがんの再発・転移なしのリンパ浮腫群(以下リンパ浮腫群)22件と悪性リンパ浮腫群38件に分けて、CDPの内容、経過及び転帰、ADLについて後方視的に調査した。CDPの内容はスキンケア、MLD、圧迫療法、運動療法について実施した件数を調査した。経過はILSのリンパ浮腫病期分類で評価しI期・Ⅱ期・Ⅱ期晩期・Ⅲ期の4段階で変化が現れた時点のものを調査し改善、不変、悪化に分け割合を算出した。転帰はCDP終了理由を調査した。ADLについてはBarthel Index(以下BI)の変化を調査した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。また、今回の検討により収集された情報は本研究のみで使用し個人が特定されないように配慮した。【結果】 CDPの内容は、スキンケアはリンパ浮腫群、悪性リンパ浮腫群とも全件に実施した。MLDはリンパ浮腫群で20件、悪性リンパ浮腫群で全件に実施した。但し、悪性リンパ浮腫にはリンパ節などの転移や全身状態に応じて一般的なMLDは実施できていない。圧迫療法はリンパ浮腫群16件(弾性包帯4件、弾性着衣10件、通常より弱圧の筒状包帯2件)で、悪性リンパ浮腫群18件(弾性包帯、弾性着衣各1件、筒状包帯16件)であった。運動療法はリンパ浮腫群18件で、圧迫下での運動が12件、CDPに加えADL改善目的が6件、悪性リンパ浮腫群22件で、圧迫下での運動が4件、CDPに加えADL改善目的が18件であった。 経過はリンパ浮腫群が改善20件(90.9%)、不変2件(9.1%)あった。悪性リンパ浮腫群が改善18件(47.3%)、不変14件(36.8%)、悪化6件(15.7%)であった。 転帰はリンパ浮腫群では改善で終了と、不変の2件は1度のみの来院となっていた。また、改善後に悪化した症例はいなかった。CDP開始時にADLが低下していた6件ともBIが上昇していた。悪性リンパ浮腫群は死亡退院22件で10件はBIが一時的だが上昇した。改善または不変で自宅退院により終了が16件となっていて全件でADLが向上した。改善・不変例においても死亡退院例では死亡直前にはほとんどの症例で浮腫、ADLとも悪化していた。【考察】 WHOは、がんの治療において早期からの緩和ケアを実践することが大切であると提唱している。また国際リンパ浮腫フレームワークでは悪性リンパ浮腫の管理について、患者の希望を満たすように治療を応用し、それが有益であるかを常に吟味することが大切であるとしている。当院では悪性リンパ浮腫患者に緩和ケアの一つの手段としてCDPを実施している。悪性リンパ浮腫の場合、病状の進行により浮腫が悪化していくこと考えられる。このような中でCDPを実施することにより改善、不変も含め84.1%となり、一時的ではあるがCDPが有効な治療の一助となることが示唆された。また、ADLが制限されていることの多い緩和ケアでは全身状態悪化する中で単にCDPの治療効果に囚われず、ADLへの介入で活動範囲の拡大や活動後のポジショニング指導、さらに負担を軽減させられるような環境の設定なども重要な治療の役割になると考えられる。 悪性リンパ浮腫においても症例に応じて詳細な評価を実施し、今一番何が求められているかに応じて、CDPの内容を吟味し実施していくことで有益な治療に繋がるのではないかと考える。また、リンパ浮腫治療は発症早期の軽度の状態から開始した方が効果的であると言われており、悪性リンパ浮腫においても早期介入することにより浮腫の改善に加え、ADLに対する介入も緩和ケアの一つとして大切ではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究により、悪性リンパ浮腫においてもCDPを実施することにより一時的ではあるが改善することが示唆された。これを足がかりにさらに治療法の詳細について検討を進め、悪性リンパ浮腫の治療法確立に繋げていくことが大切であると考える。