理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-07
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一般口述発表
大腿骨近位部骨折患者に対する手すり支持椅子立ち上がりテストの有用性とカットオフポイントの検討
柴本 圭悟上田 周平成瀬 早苗片上 智江林 琢磨桑原 道生岩崎 真美長谷川 多美子足立 はるか鶴見 元剣持 のぞみ鈴木 重行
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抄録
【はじめに、目的】 我々は第47回日本理学療法学術大会,第28回東海北陸学会において術後早期に測定した手すり支持椅子立ち上がりテスト(Handrail Support 30-sec Chair Stand:以下,HSCS-30)が大腿骨近位部骨折患者の急性期病院退院時,回復期病院退院時の歩行能力と関連があることを報告した.今回は症例数を増やし,ロジスティック回帰分析での急性期退院時の歩行自立度に影響する因子の検討と,ROC曲線での歩行自立群と非自立群でのHSCS-30の実施回数のカットオフ値について検討した.【方法】 対象は2011年2月~2012年7月に当院にて手術しリハビリを施行した大腿骨近位部骨折患者で,受傷前歩行能力が屋内歩行自立レベル以上,指示理解に問題がない38例(男性8例,女性30例,平均年齢78±8.2歳)とした.骨折型は頚部骨折26例(人工骨頭17例,Hansson Pin 6例,髄内釘3例),転子部骨折12例(全例髄内釘)であった.全例が術後翌日より全荷重であった. 評価指標および測定項目は1)年齢,2)BMI,3)HSCS-30:高さ40cmの台に座らせ,非術側の肘関節屈曲30°で平行棒を握らせた.平行棒の高さは大転子外側端とした.「用意,始め」の合図で立ち上がり,すぐに開始肢位へ戻る動作を1回として30秒間の回数を測定した.4)疼痛:Visual Analogue Scale(以下,VAS)にてHSCS-30測定時の疼痛の値とした.5)患側荷重率:平行棒を両上肢で支持した状態で,2つの体重計の上に乗り足幅を10cm開いた立位で患側に5秒間保持可能な最大荷重量を測定し体重で除した値とした.6)膝伸展筋力:健側と患側の膝伸展筋力をμ-Tas MT-1(アニマ社製)にて測定し体重で除した値とした. 3)~6)を術後5・7・10日目に測定した.そして,急性期退院時に独歩あるいはT字杖による歩行が自立した群18名と非自立群20名に分け,1)~6)を対応のないT検定,Mann-Whitney検定を行い,有意差が認められた項目に対して,5・7・10日目の値にてそれぞれロジスティック回帰分析を行った. なお,多重曲線性の問題を回避するため説明変数間の相関の有無を検討し,互いに強い相関を有する説明変数がなかった事を確認した.全ての統計手法とも有意水準は5%以下とした.また,退院時の独歩またはT字杖自立群と非自立群の2群に分け術後5・7・10日目のHSCS-30の立ち上がり回数のカットオフ値をReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線を作成し求めた.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は, 当院の倫理委員会の承認後,対象者に研究の主旨を十分に説明し,研究参加への同意を得て行った.【結果】 単変量解析の結果は年齢,術後5・7・10日目ともに,健側膝関節伸展筋力,HSCS-30に歩行自立群と非自立群の間に有意差を認めた.それらの3項目で術後5・7・10日目の値においてロジスティック分析を行い,歩行自立の可否に影響する変数として5日目では年齢と HSCS-30が, 術後7日目ではHSCS-30が,術後10日目では年齢とHSCS-30が選択された(モデルχ2検定でp>0.01). HSCS-30のオッズ比は術後5日目で1.52(95%信頼区間1.13~2.05),術後7日目で1.67(95%信頼区間1.20~2.33) ,術後10日目で1.64(95%信頼区間1.16~2.34)であった. 急性期病院退院時(在院日数19±5.5日)に独歩またはT字杖使用で歩行自立するためのカットオフ値は,術後5日目で3.5回(感度100%,特異度60%,判別的中率78.9%),術後7日目で6.5回(感度88.9%,特異度75%,判別的中率81.6%),術後10日目で6.5回(感度94.4%,特異度70.0%,判別的中率76.3%)であった.ROC曲線下面積は,術後5 日目で0.85,術後7日目で0.86,術後10日目で0.87 であった.【考察】 本研究ではロジスティック回帰分析での急性期退院時の歩行自立度に影響する因子の検討と,ROC曲線での歩行自立群と非自立群でのHSCS-30の実施回数のカットオフ値について検討した.過去の報告では大腿骨頚部骨折の歩行能力に影響する因子は,年齢,受傷前の活動性,認知症,合併症,膝伸展筋力などが挙げられている.今回の研究では,ロジスティック解析の結果, 歩行自立に影響する因子として膝伸展筋力は選択されなかったがHSCS-30は選択され,歩行自立度の予測により有用な指標であると考えられる.HSCS-30は特別な機器を必要とせず,短時間で簡単に測定可能な事,今回の結果から歩行自立に影響する指標であるという事から測定の有用性は高い.また, ROC曲線では急性期病院退院時に独歩またはT字杖で歩行を獲得するにはHSCS-30の実施回数が術後5日目に3.5回以上,術後7・10日目に6.5回以上必要であることが示された. 【理学療法学研究としての意義】 HSCS-30は大腿骨頚部骨折患者の歩行自立度の可否を術後早期から予測することができる指標となることが示唆された.
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© 2013 日本理学療法士協会
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