抄録
【はじめに、目的】 平成24年度の診療報酬改定により、亜急性期病床1(以下、亜急性)の在室上限が90日から60日に短縮された。我々は、第50回全国自治体病院学会(2011)において、比較的低い歩行自立度ながらも、退院支援の充実により、良好な亜急性の在宅復帰率を獲得したとの報告を行った。しかし、在室日数の影響因子については不明な点もあり、改定を踏まえた上での再検討が必要となった。そこで今回、改定以前の亜急性において、60日以内に退院した群(以内群)と60日から90日間に退院した群(超過群)を比較し、「在室60日以内に退院可能な亜急性入室条件」(以下、入室条件)の検討を行った。【方法】 2009年2月から2012年3月の間に在宅から一般病棟に入院し、在宅復帰を目的として亜急性へ転入の後、退院した患者100例を対象とした。うち、以内群は74例、超過群は26例であった。なお、他の医療施設からの紹介、および増悪により一般病棟へ戻った例は除外した。次に、一般的な在院日数の影響因子とされる、年齢、栄養、運動機能、認知機能、同居家族数等について、亜急性入室時のデータから後方視的に12項目を選択した。解析は、変数の特徴に合わせ、カイ二乗検定、Fisherの正確確率検定、t検定、およびU検定を行い、以内群と超過群の差を検証した。さらに、差が生じたものを独立変数とし、60日以内の退院可否を従属変数とするロジスティック回帰分析に投入した。統計処理にはIBM Statistics SPSS(ver.20)を使用した。【倫理的配慮、説明と同意】 個人情報の秘匿化後にデータ処理を行い、投稿に際して当院倫理委員会の規定に沿った。 【結果】 単変量解析による2群間の比較では、一般病棟在室日数中央値=25.5日 vs 38.0日(以内群vs超過群)、およびFunctional Independence Measure認知項目合計点(認知FIM)中央値=33.5点 vs 30.5点、以上の2変数のみで差を認めた(p<0.05)。その他、平均年齢±標準偏差=81.8±6.5歳 vs 81.4±7.2歳、男性比=16.2% vs 19.2%、平均血清アルブミン値±標準偏差=3.7±0.5g/dl vs 3.5±0.4g/dl、BMI中央値=20.7 vs 21.0、FIM運動項目合計点中央値=71点 vs 59点、レーヴン色彩マトリクス検査の標準36項目合計点(RCPM)中央値=23点 vs 19点、施設を除く純在宅復帰率=86.5% vs 80.8%、同居家族数中央値=1人 vs 1人、以上においては差を認めなかった。同様に、一般病棟別と疾患別割合の点においても差を認めなかった。次に、一般病棟在室日数と認知FIMとの間に多重共線性がない事を確認し、ロジスティック回帰分析の強制投入法を行った結果、認知FIMのみが差を示した(p<0.05)。オッズ比は0.888、95%信頼区間は0.806-0.977、モデルカイ二乗の検定はp<0.01で有意であり、Hosmer-Lemeshowの検定はp=0.327で問題なかった。判別的中率は77.0%と比較的良好であり、陽性反応的中率は77.4%、陰性反応的中率は71.4%を示した。ROC曲線における認知FIMのカットオフ値は33点、曲線下面積は0.67であった(p<0.01)。なお、全体の認知FIMは、尖度1.5、歪度-1.4で高得点側に突出した分布を示した。また、認知FIMとRCPM間におけるSpearmanの順位相関係数は0.39であった(p<0.01)。【考察】 認知機能が低いほど理学療法が難渋し、在院期間が遷延するとの報告は多い。今回、超過群の認知機能は以内群より低い事が明らかとなり、先行報告を支持する結果となった。また、認知FIMが33点以上のうち約8割が60日以内に退院でき、32点以下の7割が超過する事が分かり、認知FIMが入室条件になる事が示された。ただし、住宅改修や介護保険の調整には1ヶ月前後の期間を要するので、認知FIMと合わせた総合的な判断を行う必要がある。今回、認知FIMは高得点に集中し、かつRCPMとは異なる傾向を示した。これは、あらかじめ認知症が重度な例を選択しなかった事と、RCPMとの評価法の差が影響したためと考えられる。我々は、理学療法中の言動に限定して評価を行ったので、起居動作や歩行が確実な例ほど高い認知FIM点を与える結果となった。したがい、天井効果が懸念される得点分布となったが、多変量解析で最終的に選択された事より、入室条件としては有益な指標である事が示唆された。本研究の限界として、患者や家族ニードによる影響を解析していない事が挙げられる。例えば、症状に関係なく限度まで在室を希望する例や、家族との退院調整が難渋して遷延する例は少なくない。これらは解析精度を低下させた要因と考えられるが、変数化は極めて困難であり今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】 当院亜急性期病床において、在室60日以内の退院を達成するため、認知FIMが33点以上あることが入室条件となる。