抄録
【目的】日本整形外科学会運動器リハビリテーション委員会が2007年に作成した疾患特異的・患者立脚型慢性疾患患者機能評価尺度Japan Low Back Pain Evaluation Quetionnaire(以下JLEQ)は、腰痛による日常生活の状態、普段の活動、健康・精神状態を5段階で評価をするQuality Of Life(以下QOL)尺度として開発された。先行研究では若年者から中高年や特定高齢者を主に対象としており、要支援・要介護高齢者の慢性腰痛保持者のQOLを測定しているものは少ない。本研究では慢性腰痛を有する要支援・要介護高齢者におけるQOLと日常生活動作・運動機能の関連を明らかにすることとした。【方法】埼玉県の介護老人保健施設に通所利用されている高齢者の中で、慢性腰痛を有し歩行が自立している者27名(男5名、女22名)を対象とした。a.QOL評価:JLEQの総合得点、腰痛のQOL評価においてglobal standardといわれているRoland-Morris Disability Questionnaire(以下RDQ)を用いた。b.腰痛の評価:Visual Analog Scale(以下VAS)にて腰痛の程度を評価した。VASは100mm線上の左0mm「痛みなし」から右100mm「これまでに経験した最も激しい痛み」とし、痛みの程度を自記式とした。c. 日常生活動作能力調査票:出村らが考案した計12項目よりなる日常生活動作能力調査票を使用した。d.運動機能評価:1.腹筋筋力を久保の考案した方法にて測定し、アーム長・体重にて正規化した。さらに2.膝伸展筋力、3.握力、4.5m歩行時間(通常・最大努力)、5.Timed Up and Go (以下TUG)、6.片足立ち時間を測定した。e.統計解析:JLEQ・RDQと日常生活動作能力調査票・運動機能の関係をSpearman順位相関係数を用いて検討した。さらにJLEQ・RDQを従属変数とし、日常生活動作能力調査票の各項目および運動機能を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行った。統計処理はSPSSver21.0を使用して有意水準は両側5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は事前に当該倫理委員会の承認(申請番号:M27)を得て開始した。対象者には研究前に研究内容・目的・倫理的配慮やデータの使用に関して説明を行い対象者から同意書への署名を得た。【結果】JLEQ総合得点は47.44±24.2点、VASは43.52±25.0、RDQは11.89±4.6と先行研究よりも重症度の高い数値が得られた。JLEQとRDQとの並行テストでは従来の報告と同様に高い相関が得られた(r=0.828)。JLEQではVAS(r=0.563)と相関があり、日常生活動作能力調査票の項目別に連続歩行時間、布団の上げ下げ、荷物運搬動作、上体起こし(r=-0.433~-0.497)と相関が得られた。RDQではVAS(r=0.47)、連続歩行時間、下衣更衣動作、布団の上げ下げ、荷物運搬動作、上体起こしに加え、運動機能で膝伸展筋力、体幹筋力(r=-0.443~-0.554)に相関が見られた。VASを除いた上でJLEQを従属変数としたステップワイズ重回帰分析では荷物運搬動作のみが選択され(調整済みr2=0.238)、RDQを従属変数としたステップワイズ重回帰分析では荷物運搬動作と膝伸展筋力が選択された(調整済みr2=0.397)。【考察】JLEQを用いた先行研究においてJLEQはVASに加え、日常生活動作である起居動作に0.6以上の強い相関が得られたと報告している。本研究では先行研究の起居動作と関連が深いと思われる上体起こしよりも荷物運搬動作が選択された。要支援・要介護高齢者では介護保険の認定を受けていない一般高齢者と比較して転倒リスクが高くなるといわれている。要支援・要介護高齢者において転倒や腰痛のどちらも影響する可能性がある荷物を持って移動する能力がQOLに関わる要因として選択されたと考える。【理学療法学研究としての意義】RDQは日常生活のDisabilityを評価しているが広義ではQOL評価といわれており、JLEQではDisabilityの評価に加えて健康・精神面を評価している。腰痛の程度と家事動作にも関わる荷物運搬動作の可否が要支援・要介護高齢者のDisabilityおよび精神面を含む健康状態を包括的に改善させる一つの要因として示唆された。