抄録
【はじめに、目的】慢性疾患や能力障害は身体活動の低下をさらに助長させる要因であり,日常生活が低活動となり,推奨される身体活動への到達は難しい.身体機能,運動能力,自己効力感等は身体活動の影響因子であり,低活動者では併存疾患や服薬,呼吸機能についても関与が示唆されている.つまり,活動水準の低い高齢者に対しては,これら様々な要因を把握し,身体活動の維持を図っていく方策が必要である.しかし,低活動高齢者の身体活動を規定する因子は明らかにされていない.本研究は通院,通所リハビリテーションを利用する高齢者を対象に, 1日の身体活動量の縦断的な変化と活動特性について検討すること,介入があるにもかかわらず身体活動が短期間に低下または低活動域から脱却できない高齢者の特徴を予測するモデルを作成し,その診断特性を明らかにすることを目的とした.【方法】市内5施設の通院,通所リハビリテーション利用者105名のうち5ヶ月間追跡調査が可能であった82名(男性27名,女性55名,平均年齢77.9±7.2歳)とした.包含基準は60歳以上の高齢者,除外基準は屋内移動が不可能な者,質問に回答困難な者とした.研究デザインは前向き縦断研究とし,初回に身体活動量・説明変数・介在変数(運動能力)を計測し,3ヶ月後に介在変数,5ヶ月後に身体活動量の計測を行った.測定項目は基本属性,説明変数として,身体組成(体脂肪率,体水分率等),呼吸機能(VC, PEF等),等尺性膝伸展筋力,握力, 医学的属性(併存疾患,VAS,薬物療法),人とのつながり (LSNS-6), 自己効力感(歩行SE)とした.介在変数は開眼片脚立位, TUG, 10m最大歩行, 3分間歩行距離, 5回立ち上がりテストの変化量を測定した.測定は再現性,妥当性が確認されている方法で2回行い最大値を採用した.また従属変数を規定するため,初回と5ヶ月後にLifecorderを7日間装着し1日の平均歩数を算出した.交絡因子として年齢,BMI,性別を採用した.統計処理は,青柳らの屋内自立と非自立を分ける歩数基準を基に,1日の平均歩数が全調査期間を通して2500歩未満あるいは5ヶ月後に2500歩未満に低下した, 介入に対する非反応群とそれ以外の反応群の2群に分類し,t検定,χ二乗検定にて関連(P<0.2)を認めた変数により多変量解析モデルを作成した.二項ロジスティック回帰分析を用い説明変数,交絡因子,介在変数を階層的に投入し関連因子を検討した後,最終的に作成された予測モデルの診断特性を算出した.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】倫理的配慮として吉備国際大学大学院の倫理委員会の承認(受理番号11-24)を得た.対象者には趣旨を書面にて説明し,十分理解した上で同意書を得た.【結果】1日の平均歩数は初回2759±2833歩, 5ヵ月後2653±2582歩であった.非反応群は51名(62.2%)であった.二項ロジスティック回帰分析の結果,心疾患,PEF,体水分率,歩行SEが有意に従属変数を説明した.交絡因子投入後は心疾患,PEF,年齢,歩行SEが従属変数を説明した.介在変数投入後も同因子が従属変数を説明していた.最終モデルの診断特性は, 感度86.3%,特異度64.5%,陽性尤度比2.43,陰性尤度比0.21であった.χ二乗検定の結果このモデルは有意であり,判別的中率は78.0%であった.【考察】本研究では,身体活動が短期間に低下,または低活動域から脱却できない高齢者(非反応群)の特徴として,年齢が高いこと,PEFや自己効力感が低いこと,心疾患を有していることが示唆された.呼吸機能は加齢に伴い低下し,溝呂木らはPEFの減少とともに活動度が低下することを報告している.また,Harrisらは1日の歩数の独立因子として自己効力感が関与し,稲葉らは虚弱高齢者の自己効力感は身体機能や身体活動と相関することを報告している.また,低活動性は安静・運動時の脈拍や最大酸素摂取量とも関連することから,低活動高齢者においては運動機能よりも心身機能である呼吸・循環,および自己効力感が活動性に影響する因子である可能性がある.本研究の限界として,今回作成されたモデルの予測能が十分でないことが挙げられる.したがって今後さらなる予測因子の探索が必要である.【理学療法学研究としての意義】本研究で提示した予測モデルは,現状から高齢者の経時的な身体活動を予測し,介入法を検討する上での有用な指標を構築していく基盤となる.つまり,低活動高齢者に対して通院や通所での介入があるにもかかわらず, 常時活動域が低いあるいは低下する者に対し,医学的管理や心身機能の面からより適切な理学療法介入を模索する上での一助となると考える.