抄録
【はじめに、目的】我々は,新たなバランス評価法として,市販体重計を用いた下肢荷重率の測定法を考案し,下肢支持力や歩行能力を反映する有益な指標であることを報告してきた.下肢荷重率測定は,簡便かつ安全に実施可能な評価法である反面,難易度が低く,十分な下肢支持力を有する者に対しては,天井効果によってバランス能力の優劣を判定できない恐れがある.本研究の目的は,立位バランス及び下肢支持力の評価法としての下肢荷重率測定の限界を明らかにすることである.【方法】対象は,高齢入院患者151 例である.中枢神経疾患や明らかな荷重関節の整形外科疾患,認知症を有する者は対象から除外した.下肢荷重率の測定は,市販の体重計2 枚に左右の脚をのせた立位で行った.片側下肢に最大限体重を偏位させるように指示し,5 秒間安定した姿勢保持が可能であった荷重量(kg)を体重(kg)で除し,その値を下肢荷重率(%)とした.立位バランスの指標として,30 秒を上限に片脚立位時間を測定した.下肢支持力の指標として,アニマ社製μ-TasF-01 を用いて等尺性膝伸展筋力を測定した.統計解析にはpearsonの相関係数を用い,危険率5%を有意水準とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,研究の内容と目的を説明し,同意を得た後に測定を実施した.【結果】下肢荷重率と等尺性膝伸展筋力及び片脚立位時間の間には,それぞれr=0.70,0.69 の有意な相関を認めたが(p<0.01),それらの関係は直線回帰を示さなかった.視覚的にみて変曲点は等尺性膝伸展筋力では0.4kgf/kg付近,片脚立位時間では10秒付近であった.等尺性膝伸展筋力が0.4kgf/kg未満(n=65)では,下肢荷重率との間に有意な相関を認めたのに対して(r=0.78,p<0.01),0.4kgf/kg以上(n=86)では有意な相関を認めなかった(r=0.23,NS).片脚立位時間も同様の傾向を示し,10秒未満(n=88)では,下肢荷重率との間に有意な相関を認めたのに対して(r=0.76,p<0.01),10 秒以上(n=63)では有意な相関を認めなかった(r=0.19,NS).また,等尺性膝伸展筋力が0.25kgf/kg未満では全例が下肢荷重率90%未満,0.20kgf/kg未満では全例が下肢荷重率80%未満であった.片脚立位時間は,5 秒未満ではほとんどの症例(64/65 例)が下肢荷重率90%未満であり,53.8 〜92.7%と広範囲に分布していたのに対して,10 秒以上では全例が下肢荷重率80%以上,8 割の症例が下肢荷重率90%以上であった.【考察】下肢荷重率は立位バランス及び下肢支持力を判定する上で有益な指標となるが,対象に限界があることが明らかとなった.等尺性膝伸展筋力が0.4kgf/kg以上,片脚立位時間が10 秒以上の症例では,下肢荷重率は筋力の多寡や立位バランス能力の優劣を検出できなかった.これらのことは下肢荷重率測定の難易度が低く,天井効果によるものと考えられた.したがって,下肢荷重率が90%を超えるような症例では,片脚立位時間を併用すべきと考えられた.また,等尺性膝伸展筋力が0.4kgf/kg以上の症例で,下肢荷重率が不良な場合,筋力以外の要因によるバランス能力低下を疑うべきと考えられた.【理学療法学研究としての意義】下肢荷重率測定は重症例にも対応できるバランス評価法である.片脚立位時間や膝伸展筋力評価と組み合わせることで,より詳細な考察が可能となる.