理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-39
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ポスター発表
大腿骨近位部骨折例における歩行開始と下肢荷重率左右差の関連
澄川 泰弘川端 悠士佐藤 里美林 真美
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抄録
【はじめに】 大腿骨近位部骨折例の受傷機転は転倒が大部分を占めており,後期高齢者では屋内での転倒が多く,理学療法では歩行動作の再獲得に併せて転倒予防が目標となる.ヒトの歩行動作は「定常歩行」と歩行開始をはじめとする「過渡歩行」に分類できるが,身体機能の低下を認める高齢者では屋内での生活が主となり,「過渡歩行」の繰り返しであるといっても過言ではない.一般的に歩行開始時には足圧中心が振り出し側後方へ移動し,身体重心が重力に引かれ立脚側前方へ移動することで前方への加速力を生じる.これは逆応答現象と呼ばれ,逆応答現象を適切なタイミングで出現させるためには,歩行開始前の静止立位で足圧中心を両足中央に位置させる必要がある.臨床的にも「歩き始めが良くない」と訴える大腿骨近位部骨折例は少なくないが,大腿骨近位部骨折例では足圧中心位置が一側へ偏位している例が多く,力学的に不利な歩行開始動作になっていることが推測される.先行研究を概観する限り,大腿骨近位部骨折例を対象に「静止立位における下肢荷重偏位」と「歩行開始動作のパフォーマンス」との関連について検討した報告は無く,本研究ではこの点について明らかにすることを目的とする.【方法】 対象は大腿骨近位部骨折を受傷し観血的治療施行となった症例で,一本杖歩行が近位監視で可能な24例(Hip Fracture Group:HFG)とし,歩行時に荷重痛を有する例,中枢神経系障害の既往を有する例は対象から除いた.また健常若年者15例(Young Group:YG)を対照群とした.歩行開始におけるパフォーマンスは5m歩行中の歩行開始から1m点までに要する歩行時間割合(Gait Initiation Ratio:GIR)とし,3回の測定におけるGIR平均値を代表値とした.荷重偏位の評価にはOG GIKEN社製 WEIGHT BALANCER WB202を使用し,測定面上で快適立位姿勢を10秒間保持させ,左右下肢それぞれの荷重率の平均値を算出した.統計処理では,はじめにGIRの検者内再現性を検討するためにYGおよびHFGの両群で級内相関係数(1,3)を算出した.さらにYGとHFGのGIRについてMann-WhitneyのU検定を使用して比較した.次にHFGからYGにおけるGIRの95%信頼区間を超える例を抽出し,抽出した症例におけるGIRと下肢荷重率左右差の相関関係についてSpearmannの順位相関係数を用いて分析した.統計解析にはSPSSを使用し有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の趣旨を口頭にて説明し,本研究への参加の同意を得た方を対象として,測定を行った.なお個人情報は本研究でのみ使用し,データから個人情報を特定できないようにした.【結果】 YG,HFG各群の級内相関係数は0.77,0.74と中等度の再現性を示した.各群におけるGIRはHFG 28.3%,YG 25.3%となり,YGに比較してHFGのGIRが有意に高値であった(p=0.04).HFGからYGのGIR95%信頼区間(25.08-25.61)を超える18例を抽出し,GIRと下肢荷重率左右差の相関係数を算出した結果,rs=0.53(p=0.02)と中等度の相関関係を示した.【考察】 本研究結果からHFGはYGに比較して歩行開始時間が遅延していることが明らかとなった.抽出したHFG18例におけるGIRと下肢荷重率左右差の間に中等度の相関関係を認めており,歩行開始時間の遅延は静止立位にて下肢荷重量が一側へ偏位していることに影響を受けることが示唆された.一般的に静止立位では足圧中心と身体重心は正中線上で一致しているとされるが,HFGにおいては足圧中心が一側に偏位しており,歩行開始時に足圧中心は振り出し側後方への移動を生じるが,身体重心を前方に移動させるまでの十分な移動距離には及ばず,逆応答現象による前方への加速度が減少し,歩行開始時間が遅延する結果に至ったと考える.また一般的に定常歩行では脊髄に存在するCentral Pattern Generatorが歩行リズムを作り出すとされるが,過渡歩行においては上位中枢が関与し意識的制御の影響が大きいとされる.本研究で対象としたHFGに関しては高齢者を中心に構成されるために,上位中枢の加齢変化により歩行開始の合図から筋活動出現までの反応潜時が遅延したことが考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究は大腿骨近位部骨折例の歩行開始時間の遅延を初めて明らかにした研究である.またこの歩行開始時間の遅延が下肢荷重率左右差と中等度の相関を有することを示した点で,臨床的示唆を与える意義深い研究であると考える.
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© 2013 日本理学療法士協会
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