抄録
【目的】大腿骨近位部骨折は、高齢者に多い骨折でありさまざまな併存症もあることから手術施行がリスクを伴い他診療科へ紹介される例が多くみられる。併存症の影響による大腿骨近位部骨折術後患者の機能回復については報告が少なく今後の理学療法を展開していく上でも検討の必要があると考えた。本研究では併存症の有無における大腿骨近位部骨折術後患者の日常生活動作を再獲得するために重要な歩行能力とそれにより影響を受ける転帰先の比較検証することを目的とした。【方法】対象は大腿骨近位部骨折により入院し手術が施行された入院患者95名。対象となった入院患者の電子カルテより後方視的に情報収集を行った。対象者のうち、併存症がなく手術が施行された症例が55例(以下、併存症なし群、平均年齢80.9±11.0歳、男性11名、女性44名)、併存症があり術前に他診療科へ紹介された症例が40例(以下、併存症あり群、平均年齢80.9±10.8歳、男性7名、女性43名、)であった。併存症の内訳は糖尿病10例、循環器疾患15例、脳血管疾患3例、その他12例であった。歩行能力は独歩または、杖にて自立歩行ができる群を1群、歩行器や手すりなどで介助歩行ができる群を2群、車椅子使用など歩行不可能な群を3群に分類した。併存症なし群と併存症あり群のそれぞれの受傷前と退院時の歩行能力を各群に分類した。さらに併存症なし群と併存症あり群の受傷前と退院時の歩行能力の変化を分類分けした。転帰先については併存症なし群と併存症あり群のそれぞれの症例を自宅、転院、施設の3群に分類分けした。統計処理は、併存症なし群と併存症あり群のそれぞれで受傷前と退院時の歩行能力と受傷前から退院時までの歩行能力の変化をそれぞれカイ二乗検定により比較した。また、併存症なし群と併存症あり群の転帰先の分類をカイ二乗検定により比較した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は当院の倫理規定及びヘルシンキ宣言に沿って実施した。当院個人情報保護規定に沿って個人を特定・類推させる情報を削除し個人情報の保護に配慮して研究を実施した。【結果】併存症なし群間の受傷前と退院時の歩行能力の分類では受傷前の歩行能力が1群37名、2群17名、3群1名、退院時の歩行能力が1群18名、2群30名、3群7名であり2群の間で有意差が認められた。併存症あり群間の受傷前と退院時の歩行能力の分類でも受傷前の歩行能力が1群24名、2群13名、3群3名、退院時の歩行能力が1群6名、2群25名、3群9名であり2群の間で有意差が認められた。併存症なし群と併存症あり群の受傷前から退院時までの歩行能力の変化の程度においては、併存症なし群において歩行能力が向上した3群→2群が1名、歩行能力に変化がなかった1群→1群が18名、2群→2群が10名、歩行能力が低下した1群→2群が19名、2群→3群が7名であった。併存症あり群では歩行能力に変化がなかった1群→1群が6名、2群→2群が9名、3群→3群が3名、歩行能力が低下した1群→2群が16名、1群→3群が2名、2群→3群が4名でありこの2群の間では有意差が認められなかった。転帰先については、併存症なし群が自宅13名、転院28名、施設14名であり、併存症あり群が自宅3名、転院28名、施設9名であり2群の間で有意差は認められなかった。【考察】受傷前と退院時の歩行能力の分類については、併存症なし群、併存症あり群ともに有意差がみられたことからも併存症の有無にかかわらず術後の退院時歩行能力は低下する傾向があることが考えられた。原因として受傷によることも考えられるが、在院日数の短縮がすすめられておりリハビリが継続して必要な患者は転院になる場合が多く退院時の歩行能力が回復途中になっている患者が含まれていることも考えられる。併存症なし群と併存症あり群の受傷前から退院時までの歩行能力の変化の程度については、2群間に有意差が認められず併存症のために術後の歩行能力が併存症のない患者以上に低下していく傾向があるとは考えられなかった。しかしこのことは術前に併存症に対応する診療科の評価や治療が適切に介入され術後の全身状態悪化による身体機能低下が予防できていることも考えられ術前の評価と治療の介入の重要性を示唆していると考えた。転帰先については、医療ソーシャルワーカーの介入や在院日数の短縮がすすめられていることも考えられ転院や施設になる場合が多かったが、併存症なし群と併存症あり群の間に有意差がなく併存症の影響により転帰先が転院や施設になっているとは考えられなかった。【理学療法学研究としての意義】併存症や合併症が多い高齢の大腿骨近位部骨折術後患者の理学療法を考えていく上で、より適切なアプローチを施行する一助になると考えた。