理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-11
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一般口述発表
冷刺激がラット後肢の他動運動時に発生する深部感覚に及ぼす影響
緒方 茂出口 太一山本 英夫松原 誠仁吉村 惠飯山 準一
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キーワード: 冷刺激, 活動電位, 筋紡錘
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抄録
【はじめに、目的】臨床における冷刺激の利用は寒冷療法として用いられ、関節疾患や炎症による疼痛や筋スパズムの軽減、中枢神経疾患の筋緊張の抑制などを目的に用いられる。このような中で冷刺激が運動器や疼痛、筋緊張に与える生理的な機序も明らかになってきた。しかし冷刺激下での関節運動による生体反応を観察した研究は少ない。今回われわれはラットのin vivo標本にて関節を他動的に動かした時、筋紡錘の反応を観察する事が出来る電気生理学と運動力学を融合させた動物実験手法を開発した。そこで本研究では関節運動の速さを入力刺激とした筋紡錘からの感覚情報である活動電位が、局所的な皮膚からの冷刺激によりどのような影響を受けるのか解析を行った。【方法】対象は6 週齢〜7 週齢のWistar系ラット8 匹を用いた。解剖により脊髄神経節(DRG)を露出し、ラットの検査後肢には冷刺激が入りやすいように皮膚表面の体毛を処理し動作解析で用いるマーカーを貼付した。活動電位の記録はDRGに微小ガラス管電極を刺入させて行う細胞内記録法を用い、ラットの足関節を標的にしているため第3 腰髄節(L3)から第4 腰髄節(L4)のDRGを選択した。動作解析ではラットの検査後肢に貼付した6 つのマーカーの分析点座標の収集にハイスピードカメラ2 台を使用し、その映像を基に関節運動を3 次元空間上に復元させる方法としてDirect Linear Transformation Methodsを用いて各分析点の3 次元座標値を算出した。この得られた3 次元座標値を用いて足関節角度を求め、さらに足関節角度を時間で数値微分することにより関節角速度を算出した。関節運動の入力刺激は検査者がラット検査後肢の足部を弾くような動きを速い運動、ラットの下腿と足部に鉗子を用いてゆっくり動かす運動を遅い運動とし、この運動刺激の入力は同一の検査者にて行った。冷刺激はラットのdermatome chartのL3 〜L4 の分節性支配領域をキュービックアイスにて冷却し、皮膚温は温度センサーとデジタル温度計にて計測した。これらの方法にて冷刺激を与える前にコントロールとして皮膚温の計測と速い運動、遅い運動の活動電位を記録する。この条件を冷却前とする。さらにラットの表在のみを冷却するため1 〜2 分程度の冷刺激を与えた後、皮膚温と活動電位を計測する条件を短時間冷却,深部まで冷却する8 〜10 分程度の冷刺激を与えた後、皮膚温と活動電位を計測する条件を長時間冷却という設定にした。これら3 条件下で得られた活動電位の発火頻度を算出し解析を行った。統計的解析手法は反復測定による分散分析で解析を行い有意性が見られた場合は多重比較をtukey法にて検定した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】今回の実験は熊本保健科学大学の動物実験委員会の承諾を得て実施した。【結果】入力刺激であるラット足関節の運動を動作解析し、ラット足部の速い運動と遅い運動の間には関節角速度の差が見られ、速い運動に比べて遅い運動の速度変化が小さかった。活動電位発火頻度の解析では、速い運動において長時間冷却時に活動電位発火頻度が減少する傾向がみられたが有意差は見られなかった。また遅い運動においても冷却前と短時間冷却の間に有意な差は見られなかったが,冷却前と短時間冷却に比べ長時間冷却では活動電発火頻度が減少しており有意差が見られた(p<0.05)。さらに遅い運動において、冷却前から短時間冷却にかけて温度勾配に差がないものと差があるものに分けて解析した場合、温度勾配に差がないものでは発火頻度が減少傾向であったが、温度勾配に差があるものでは発火頻度が増加傾向であった。【考察】今回の実験でラット足関節の速い運動と遅い運動において,冷却前および短時間冷却に比べ長時間冷却での活動電位発火頻度が減少している傾向が観察された。これは長時間冷却した事により深部まで冷却され、γ繊維の伝導速度の低下と筋紡錘の活動抑制が求心性線維の活動電位発火頻度を減少させたと推測される。また遅い運動で皮膚温の温度勾配に差があるものにおいて活動電位発火頻度が増加する原因については、TRPチャネル温度受容体と延髄の縫線核の存在が関与していると考える。先行研究の結果では、延髄の縫線核が冷刺激の反応を制御するものであり筋紡錘を活性化するものであると示唆している。今回の研究でも十分に体温が維持された状態から冷刺激を与えると冷感受性をつかさどるTRPM8 あるいはTRPA1 が冷刺激を受容し延髄の縫線核に伝わる。そこから脊髄を下行してγ線維に接続し筋紡錘が活性化したため活動電位発火頻度が増加したと推測される。【理学療法学研究としての意義】今回の実験結果では、in vivoにおいて表在だけ冷却した場合と深部まで冷却した場合の関節運動による筋紡錘活動を記録し異なった反応が見られ、臨床的応用にもつながるものであった。
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© 2013 日本理学療法士協会
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