理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-39
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ポスター発表
リハビリ職員の手に付着している細菌とアルコール消毒
新井 保久佐野 純子
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キーワード: 手指消毒, アルコール, 細菌
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抄録

【はじめに、目的】われわれ理学療法士は患者さんに直接,手指で接することが多い。そのため感染症には常日頃から注意する必要があり,接触感染の予防のための手指消毒は非常に重要である。そこで今回,当院のリハビリ技師の手指についている細菌を3 つの目的の下に調査した。目的1=患者さんのリハ途中の技師の右手指に細菌が付着しているのか。目的2=アルコールの3 つの使用方法の違いによって消毒に差が出るのか。〔A法=本人が普段行っているアルコール使用。B法=推奨されている手指消毒の手順表(以下,手順表と略)を見せながら本人に行わせる。C法=アルコールの量を指定して手順表を見せながら行う〕の3 法に選別。目的3=手指消毒の効果を培養したコロニーを比較させ実感させるという教育的な目標。【対象および方法】当院のリハビリ技師の中で中堅から新人までの理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の17 人を対象とした。その右手掌を,消毒前とアルコール消毒後にそれぞれ,栄研化学社製の環境微生物検査用試薬の『ハンドぺたんチェック』に,押しつけさせた。それを細菌検査室にて約48 時間の培養後,細菌数をコロニーの数として数えた。(アルコールはリハビリ技師に常に携帯させている速乾性手指消毒剤のゴージョーMHS60mlを使用)【倫理的配慮、説明と同意】調査対象者に調査の目的や方法,個人情報の厳守等について説明し同意を得た。【結果】(1)『リハビリ途中の消毒前の細菌の存在』 患者さんのリハ途中において,技師の右手掌に多くの細菌数が検出された。その種類は〔黄色ブドウ球菌・表皮ブドウ球菌・コリネバクテリウム・バチルス・ミクロコッカス・グラム陰性桿菌〕である。その中でも,病原性が高いとされる,ブドウ球菌(以下ブ菌と略)とグラム陰性桿菌(以下GNRと略)は,17 人の26 例の標本においてブ菌は26 例のうち8 例で,GNRは26 例のうちの7 例で検出された。総コロニー数では,約50 コロニー以上は26 例のうち24 例であり,更に約 100 以上のあったのは26 例のうち19 例だった。(2)『消毒後の細菌の存在』〔病原性の高い細菌の場合〕・A法の「本人の使用」=ブ菌とGNR合わせて6 例あったうち2 例が消毒されなかった。・B法の「手順表を使用」=ブ菌とGNR合わせて3 例あったうち2 例で消毒されなかった。・C法の「アルコール量指定と手順表を使用」=ブ菌とGNR合わせて6例あったが全て消毒された。〔全ての細菌の総コロニー数〕(総コロニー数30以下を概ねきれいになったとする) A法=7 例中3 例が30 以下にならなかった。 B法=7 例中3 例が30 以下にならなかった。(但し3 例のうち2 例は消毒前に 200 以上の多量の細菌が存在していた) C法=12 例中2 例が30 以下にならなかった。(但しその2 例ともバチルスが多く生存しており,バチルスを除くと30 以下になる)(3)『教育学的視点』 17 人の内16 人において,数回の指導の下にアルコール消毒後にはコロニー数が30 以下になることを確認させた。残りの1 人もバチルス以外では30 以下になった。【考察】今回の手指消毒は,「目に見える汚れがない」ためアルコール製剤を使用した。消毒の3 要素は,消毒剤の『温度・濃度・接触時間』と言われている。今回の方法では『温度と濃度』は問題ない。しかし『接触時間』は「アルコールの量と手指消毒の手順方法」によっては不十分になる。A法の場合「アルコール量と消毒手順が不十分」の可能性があり,またB法の場合「アルコール量が不十分」の可能性がある。病原性の高い細菌については「アルコール量と手指消毒手順」を遵守させると検出されなくなった。検出されたバチルスは,芽胞菌でありアルコールに耐性があるため,今回の調査でも消毒できなかった。そのバチルス菌を除いた結果では「アルコール量と手指消毒手順」を遵守させると,全ての菌量は著明に減少し,調査した職員全員にアルコール消毒の効果を確認させることができた。【理学療法学研究としての意義】手指に付いた細菌に対しアルコール消毒の有用性は確認できた。それをいかに臨床で活用させるか,そのための職員教育の重要性を改めて感じさせられた研究であった。

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© 2013 日本理学療法士協会
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