抄録
【はじめに、目的】運動は骨格筋における脂質代謝を亢進させることで、肥満の予防や改善に効果的であることが広く知られている。また、肥満の予防や改善に対しては、栄養サポートを用いた介入も数多く試みられている。一方、脂肪を低減させる効果をもつサプリメントの一つであるグラボノイドは、肝臓における脂肪合成酵素を抑制し、脂肪酸分解酵素を活性化することで脂肪蓄積軽減や体重減少、血糖値低下の効果が報告されている。しかし、グラボノイドを用いた脂肪量減少に関する研究は多く行われているが、グラボノイドによる骨格筋での脂質代謝や運動とグラボノイドの組み合わせによる脂肪量減少への効果は明らかにされていない。本研究では、運動に加えてグラボノイドによる栄養サポートを組み合わせることで骨格筋と肝臓の脂質代謝が相乗的に活性化し、効果的に内臓脂肪組織量を減少させることが可能ではないかとの仮説を立て、運動とグラボノイドが脂質代謝に与える影響について検証を行った。【方法】8 週齢の雄性SDラットを対照群(Con群,n=7)、運動群(Ex群,n=7)、グラボノイド群(Gn群,n=7)、運動+グラボノイド群(ExGn群,n=7)の4 群に分けた。Ex群及びExGn群には、トレッドミルを用いた中等度強度の持久運動を週に5 日実施した。Gn群とExGn群に対しては1 日あたり1500mg/kgの量のグラボノイドを、他の2 群に対しては同量のオリーブオイルを朝と夜の2 回に分けて経口投与した。7 週間の実験終了後、サンプルとして精巣上体脂肪、肝臓、足底筋を摘出し、湿重量を測定した。精巣上体脂肪のパラフィン切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を用いて、白色脂肪細胞の直径を測定した。肝臓における脂質代謝の指標として、カルニチンパルミトイル転移酵素(CPT)活性を測定した。また、骨格筋における脂質代謝の指標として、3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素(HAD)活性及びクエン酸合成酵素(CS)活性を測定した。得られた結果は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定及びKruskal-Wallis検定を行い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】すべての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】精巣上体脂肪の湿重量に関して、Ex群、Gn群、ExGn群ではCon群に対して有意に低値を示した。また、ExGn群はEx 群に対して有意に低値を示した。白色脂肪細胞の直径は、Gn群とExGn群ではCon群に対して有意に低値を示した。また、ExGn群はEx群に対して有意に低値を示した。一方、Con群とEx群及びEx群とGn群の間に有意差はなかった。肝臓のCPT活性は、Gn群とExGx群はCon群及びEx群に対して有意に高値を示した。足底筋のHAD活性及びCS活性は、Ex群とExGn群ではCon群及びGn群に対して有意に高値を示した。【考察】脂肪組織量は運動とグラボノイドの併用で最も減少した。骨格筋の脂質代謝は運動によってのみ活性化され、肝臓の脂質代謝はグラボノイドによってのみ活性化した。骨格筋では運動によりβ酸化の酵素であるHAD及びTCA回路の酵素であるCS活性が活性化した。脂肪酸はβ酸化を受けアセチルCoAとなりTCA回路で代謝される。運動により骨格筋においてβ酸化を受ける脂肪酸の動員数が増加し、それに伴いTCA回路で代謝される脂肪酸も増加し、脂質代謝が活性化した。一方、肝臓ではグラボノイドにより脂肪酸のミトコンドリア内マトリックスへの輸送に関わる酵素であるCPTが活性化した。脂肪酸はCPTの働きによってミトコンドリア内に取り込まれ代謝される。グラボノイドにより肝臓においてミトコンドリア内に取り込まれる脂肪酸の動員数が増加し、脂質代謝が活性化した。また、運動とグラボノイドを組み合わせることにより最も脂肪減少がみられたのは、骨格筋と肝臓での脂質代謝がどちらも活性化されたことによると考える。さらに骨格筋や肝臓の脂質代謝活性化にはPPARδやシトクロームP450 の関与も考えられている。今後は運動とグラボノイドの組み合わせによる脂肪減少の作用機序を明らかにするためにPPARδやシトクロームP450 を含んだ解析が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】運動とグラボノイドを組み合わせることにより、骨格筋と肝臓の両方における脂質代謝が活性化し、脂肪量減少の相乗効果が期待できることは、肥満に対する理学療法を発展させる可能性があるため、意義があるものと考える。