理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: F-P-03
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ポスター発表
神経筋電気刺激による深部温度とパルス幅に関する研究
三和 真人竹内 弥彦堀本 佳誉大谷 拓哉伊橋 光二真壁 寿神先 秀人赤塚 清矢
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抄録
【はじめに】理学療法の治療方法の1つである神経筋電気刺激(Neuromuscular Electrical Stimulation; NMES)は、Maffiulettiらが報告しているように整形外科疾患による急性・慢性の疼痛治療や筋力強化、あるいは脳血管障害など中枢神経疾患の運動機能回復、痙性抑制など様々な目的で臨床応用がされている。また近年NMESを取り入れたBrain Machine Interfaceも成果を上げつつある。しかしながらNMES治療の裏にある筋疲労が誘発される現実もある。NMESによって筋線維typeIとtypeⅡが同期収縮され、生理学的筋収縮機序が崩れる原因を改善するまでに至ってない。著者らはNMESで刺激電極間を中心に皮膚温上昇がおこり、筋疲労に影響する可能性を報告してきた。CrampらはNMESによる熱発生の原因は筋細胞TCA回路において糖質が水と二酸化炭素に分解される代謝過程で熱が起きることを報告しているだけで、熱と筋疲労の関連を言及した研究は他にない。本研究はNMESによる熱発生が筋疲労を誘発するものと仮定し、深部温度と刺激幅の変化から筋疲労の原因を解明することを目的とした。【方法】対象は健常成人13名(年齢24.6±2.6歳)とし、実験課題は刺激周波数30Hzとし、刺激幅0.5msec、1msec、5msecでNMESを前脛骨筋に加えるものとした。測定手続きは、運動点を挟んで電極間距離15cmに4×4cmの刺激電極を貼付した。測定前に最大背屈筋力2回の平均から10%MVCを算出し、NMESによる筋張力発揮の設定値とした。刺激時間1秒、休止期15秒のOn-Offを1サイクルとし、120回刺激の32分実施とした。筋疲労が起きないNMESはOn-Off比が1:5以上とされ、本実験では筋疲労が起きづらい条件と考えられた。休止15秒間のうち、随意筋収縮5秒行って筋電図信号を測定した。深部温度測定は、刺激電極間の筋腹中央に直径1.5cmプローブを貼付し、1分間毎に温度を計測した。対照実験は、同様の手続きで、健常成人9名(年齢24.1±2.6歳)に休止時間15秒で随意運動5秒の120回実施した。実験は隔日以上の間隔で実施した。統計処理は深部温度の測定前と最大値の比較をt検定で行った。また各刺激幅で測定前、最大値それぞれで分散分析を行った。加えて、筋疲労有無の分析はそれぞれの刺激幅で実験開始を基準とし、開始時、5分、15分、30分経過時間で低下率を算出して分散分析を行った。なお各統計学解析の有意水準は5%とした。【倫理的配慮】本研究は千葉県立保健医療大学と山形県立保健医療大学それぞれの倫理委員会で承認され、参加者に口頭と書面で同意を得て実施した。【結果】深部温度の上昇は、0.5msec、1msec、5msecパルス幅で測定開始時に比較して、1msecと5msecでそれぞれ平均35.8±0.5℃、36.3±0.4℃から0.8℃、0.7℃の上昇(p<0.05)がみられた。随意収縮のみでは測定開始時にくらべ0.5℃と上昇がみられたが、NMESに比べ深部温度は低かった。パルス幅による深部温度は、パルス幅間で差はみられなかった。RMSの変化率は、0.5msec、1msec、5msecでいずれも平均値85~120%の範囲であった。同様に中央と平均パワースペクトラムはそれぞれの平均値90~110%範囲に収まり、低下率に有意差はなかった。【考察】NMESによって刺激電極間筋腹中央の深部温度の上昇がみられ、筋収縮に伴って筋線維束、特に運動点に電流密度が増大することが考えられた。またCrampらの報告のようにNMESによる磁界が筋細胞膜内外のNaイオンとKイオンの濃度を変化させる要因も組織学的に考えられた。しかし本研究ではパルス幅が筋組織の熱発生を引き起こすものと仮説を立てていたが、Gorgeyらパルス幅と刺激強度がNMESに影響しないとする報告から考えると、熱発生が筋疲労を誘発する別の原因究明が必要と考えられた。本研究の限界は、SynderらのNMESによる筋力強化で用いたOn-Off比とは異なること、パルス幅と刺激強度が筋疲労に影響しない報告を考えると、NMESが必ず筋疲労を誘発するとした結論に至らなかった。今後、筋線維伝導速度など直接的に筋疲労を測定する方法やStevensらによる1:3のOn-Off比を短縮するなど研究する必要がある。【理学療法学研究としての意義】NMESによる発生する磁界や磁力線が深部筋組織の熱発生に影響するか研究し、併せて熱発生機序と筋疲労の関係を分析することがNMESに必要不可欠であると考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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