抄録
【はじめに、目的】 不活動に伴う筋持久力の低下には骨格筋ミトコンドリア内の酸化系酵素反応の低下が関与しており、四肢深層部に位置する骨格筋において顕著であるとされている。筋持久力低下の予防に対して治療的電気刺激を用いた場合、低周波電気刺激は組織の浅層部を電流が流れる特徴があり、深部到達度が低いため、深層筋における効果は乏しい。一方、中周波電気刺激は低周波電気刺激と比べて深部到達度が高いとされており、低周波電気刺激では治療効果の低い深層筋に対する効果も期待できる。本研究では、不活動に伴う骨格筋のミトコンドリア内の酸化的リン酸化反応の障害に対する中周波電気刺激の予防効果を下腿深層筋であるヒラメ筋を用いて検証した。【方法】 20週齢の雄性SDラットを対照群、後肢非荷重群(HU群)、非荷重期間中に低周波電気刺激を行った群(l-ES群)、非荷重期間中に中周波電気刺激を行った群(m-ES群)に区分した。電気刺激は非荷重開始日の翌日から行い、下腿後面に経皮的に実施した。l-ES群、m-ES群共に超最大収縮の刺激強度で実施し、刺激周波数は100Hzとした。電気刺激中は足関節を90°に固定し、1秒間の刺激と2秒間の休息の20サイクルを1セットとし、6セットを1日2回の刺激を実施した。また、疲労を避けるためにセット間には5分間の休息を設けた。2週間の非荷重期間終了後にペントバルビタール麻酔下でヒラメ筋を摘出し、凍結保存した。凍結切片を作製し、コハク酸脱水素酵素(SDH)染色により筋線維のSDH活性を測定した。さらにアセチル-CoAからTCA回路に進入するときに作用するクエン酸合成酵素(CS)の活性とミトコンドリア新生に関わるPGC-1αのタンパク質発現量を測定した。全ての測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の承認を得たうえで実施した。【結果】 筋線維のSDH活性はm-ES群では他の3群と比べて有意に高値を示した。CS活性は、HU群で対照群と比較して有意に低値を示し、l-ES群とm-ES群ではHU群に比較して有意に高値を示した。一方、l-ES群とm-ES群の間には有意差を認めなかった。PGC-1αタンパク質発現量に関しては、HU群では対照群と比較して有意に低値を示した。一方、l-ES群とHU群の間には有意差を認めなかったが、m-ES群はHU群に比べて有意に高値を示した。【考察】 不活動に伴いヒラメ筋におけるPGC-1αの発現とCS活性は減少した。PGC-1αはミトコンドリア新生を誘導する転写調節因子であるため、不活動によってヒラメ筋のミトコンドリア数は減少し、TCA回路に代表されるミトコンドリア代謝機能は障害されたと考えられる。このようなミトコンドリア代謝障害に対し、低周波電気刺激は不活動に伴うPGC-1α発現の減少を軽減できなかったが、中周波電気刺激では減衰できた。また、低周波電気刺激は筋線維におけるSDH活性に影響を及ぼさなかったが、中周波電気刺激は筋線維におけるSDH活性を増加させた。これらの結果から中周波電気刺激は低周波電気刺激では治療が難しい深層筋を刺激し、不活動に伴うミトコンドリア代謝障害の軽減に貢献したと考えられる。経皮的に行う電気刺激が筋に到達する際、皮膚の電気抵抗(インピーダンス)が通電阻害因子となる。皮膚の電気抵抗は刺激周波数に反比例し周波数が高いほど抵抗が減少するため、中周波電気刺激は低周波電気刺激よりも強い電流を通電することが可能で、深部組織への到達度が大きい。このことから中周波電気刺激ではヒラメ筋に十分に刺激が到達したのに対し、低周波電気刺激では十分には刺激が到達しなかったのではないかと考えられる。一方、低周波電気刺激であるl-ES群と中周波電気刺激であるm-ES群のCS活性は同程度の値を示したが、SDH活性はm-ES群で有意に高くなった。CS活性はアセチル-CoAからTCA回路に進入する反応を示し、SDH活性はTCA回路の反応を示す指標となるために、低周波電気刺激と中周波電気刺激が、ミトコンドリア内の異なる反応系を刺激している可能性もあり、今後さらなる検証を行う必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究では、廃用性筋萎縮に対して、骨格筋の代謝に関わるミトコンドリア機能に焦点をあてて研究を行った。また、体肢深層部に位置する筋に注目し、中周波電気刺激が有用な治療手段となり得ることを示した点で、理学療法の新たな治療戦略として意義があるものと考える。