理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-12
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一般口述発表
360°回転ジャンプ着地動作時筋活動
唄 大輔徳田 光紀福本 貴彦
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抄録
【はじめに、目的】 近年,ジャンプ着地時の筋活動のタイミングに関する報告が多くされており,特に前活動という機能が着目されている.ジャンプ着地時の膝関節周囲筋の筋活動においては,大腿四頭筋に対してハムストリングスの筋活動が早く起こることが多く報告されている.特に膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament:以下ACL)損傷予防プログラムの中で,様々なジャンプ動作が用いられており,その中には垂直方向のジャンプ動作,スクワットジャンプ,前後ジャンプ動作,そして180°回転や360°回転ジャンプ動作がある.ACL予防のためには,ジャンプ動作からの着地動作指導が必要であると報告されており,先行研究で180°回転や360°回転ジャンプ動作時の動作解析は報告が見当たらない.現場では予防プログラムとして用いられているが動作解析の報告がないために,回転ジャンプ動作が必要なのか疑問である.そこで本研究では,360°回転ジャンプ時の着地動作において,表面筋電図を使用し,着地動作時の最大筋活動時間の相違を検証する.そして,予防プログラムとして有効であるかを検証する.【方法】 対象は下肢に運動器疾患のない健常女子大学生11名(平均年齢19.8±1.0歳,平均身長157.1±3.9 cm,平均体重50.2±2.6 kg)とした.課題動作として,右方向への360°回転ジャンプを実施した.課題動作は,直立位から右側へ360°回転ジャンプを行わせ,開始肢位に戻ることとした.測定は3回行ない,着地後に着地姿勢を2秒間保持することを条件とした.本研究では,左下肢を測定下肢とした.着地動作における膝関節周囲筋の筋活動の測定には,表面筋電図測定装置(SX230; Biometrics Ltd. UK)を用い,サンプリング周波数は2000Hzとした.被検筋は,内側広筋(Vastus medialis:VM),外側広筋(Vastus lateralis:VL),大腿二頭筋(Biceps femoris:BF),半膜様筋(Semimembranosus:SM)の4筋とした.得られた筋電図波形4筋において,最大筋活動が訪れる平均時間を算出し,それぞれの差をみるために一元配置分散分析を用い,多重比較にはTukeyを用いた.危険率は5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H23-25)を得て行った.また,被験者には本研究の十分な説明を口頭および文書にて行い,同意を書面にて得た.【結果】 回転ジャンプ着地後の最大筋活動が見られた時間は,VMが104.7±25.5ms,VLが98.9±22.2ms,BFが10.9±64.2ms,SMが24.8±69.4msであった.今回,着地前後の0.4秒間の最大筋活動を測定したが,全ての筋において着地後に最大筋活動が記録された.また,着地時の筋活動について,ハムストリングスが大腿四頭筋に対して最大筋活動時間が有意に早く起こった(p<0.05).しかし,VMとVL,BFとSMの間には有意な差は認められなかった.【考察】 本研究では,回転ジャンプ着地動作時の最大筋活動時間の差を検討した.その結果,全ての筋で着地直後に最大筋活動が起こった.また,ハムストリングスの筋活動時間が大腿四頭筋に対して有意に早く活動が起こった.これらのことから,回転ジャンプ着地前後の筋活動において,膝関節屈曲筋群の筋活動が早く起こることが示された. 台からのドロップジャンプや垂直ジャンプ動作時の筋活動の先行研究において,ハムストリングスの活動は着地前に最大となり,大腿四頭筋においては着地後に起こるという報告が多い.本研究では,全ての筋において着地後に最大筋活動が起こった.これは先行研究と違い難易度が高く,経験による予測的制御が働きにくいことが考えられる.しかし,ハムストリングスの最大筋活動は大腿四頭筋より早く起こり先行研究と同様の結果となった.また,内側と外側の筋において群間の有意差は認められなかった.回転ジャンプにより支持脚には膝関節外反方向のストレスが加わることが考えられ,そのストレスを制動するために内側の筋群の活動が高く見られることが考えられる.しかし今回の結果から,有意な差は認められず,VMとVL,BFとSMにおいてそれぞれ最大筋活動が似たタイミングで起こった可能性が考えられる.それにより外反や内反方向への回旋ストレスを軽減することが考えられる. 以上より回転ジャンプ動作においても,着地時に膝関節は正中位となり,またハムストリングスの活動が早く起こることで膝関節屈曲位を誘導することが示唆された.これはACL損傷予防肢位であり,適切なアライメントを保持することで予防トレーニングとして有効であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 以前より予防プログラムとして用いられていた回転ジャンプ着地動作においても,適切な筋活動を誘導することは,ACL損傷予防につながり有効なプログラムの一つと考えられる.
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© 2013 日本理学療法士協会
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