理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-12
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一般口述発表
着地動作時に生じる膝関節回旋パターンと膝関節外転運動の関係
石田 知也山中 正紀谷口 翔平越野 裕太武田 直樹松本 尚青木 喜満
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抄録

【はじめに、目的】 膝前十字靱帯(ACL)損傷のリスクとして着地動作時の膝関節外転運動や内旋運動が報告されている.また,着地動作時の膝関節回旋運動は膝関節周囲組織(鷲足,膝内側側副靱帯靱帯など)のストレスの原因として考えられる.しかし,着地動作時の膝関節回旋運動に関しては報告が少なく,それを明らかにすることは膝関節障害の予防・治療を行う上で重要である.我々は第44回日本理学療法学術大会(2009)にて荷重下で膝屈曲角度を一定にした下肢外反運動(Knee-in,Dynamic knee valgus)において膝関節外旋運動が生じたことを報告し,第22回日本臨床スポーツ医学会(2011)では着地動作時の膝関節回旋運動に多様性があることを示唆した.本研究の目的は1)着地動作時の膝関節回旋運動を検討すること,2)着地動作時の膝関節回旋パターンと膝関節外転運動が関係するかを検討することとした.【方法】 対象は過去6か月に整形外科学的既往がない健常女性25名とした(21.0±1.3歳,159.4±6.4cm,50.6±6.5kg).動作課題は30cm台から着地後直ちに最大垂直跳びを行うDrop vertical jumpとし,反射マーカーを右の大腿,下腿などに合計39個貼付して赤外線カメラ6台(MotionAnalysis,200Hz)と床反力計2枚(Kistler,1000Hz)を同期させ記録した.台からの着地における初期接地(IC)から最大膝屈曲時までを解析対象とし,データ解析ソフトSIMM(MusculoGraphics)を用いて膝関節内外転,内外旋角度を算出した(それぞれ外転,内旋が正).また,膝関節回旋パターンについて検討するため我々の過去のデータ(2011)を参考にしてパラメータを決定した.過去のデータではほぼ全例で膝関節は接地後に内旋し,早期に内旋角度ピークが生じていた.内旋ピーク後はほぼ回旋運動を生じない例,緩やかに外旋する例,急激に外旋する例が見られたため,膝関節内旋角度ピーク値とその後生じる膝関節外旋角度ピーク値の差を外旋変化量と定義し(外旋変化が正),膝関節回旋パターンを表すパラメータとした.また,接地後40msまでの膝関節外転,内旋運動とACL損傷の関係性が示唆されているため,接地後40ms間での膝関節回旋角度変化量を算出した.統計学的解析では膝関節外転,内旋角度のIC時,ピーク値と外旋変化量の間の関係性に関してPearsonの相関係数を用いて検討した(P<.05).なお,各被験者データは成功3試行の平均値を用いた.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学保健科学研究院倫理委員会の承認を得て行った.対象には事前に口頭と書面で研究内容について説明し,十分に理解を得て参加に同意した者は同意書に署名をし,研究に参加した.【結果】 IC時の膝関節回旋角度は1.3±4.2°であった.IC後に一貫して内旋,外旋運動を呈した例を各1例ずつ認めたためその後の解析から除外した.残りの23例における内旋角度ピーク値は8.5±5.2°であり,接地後71.7±46.8msに生じていた(膝屈曲角度ピーク:179.1±41.3ms).内旋角度がピークに達した後の外旋変化量は7.0±5.6°(0.7-24.0°)であり,ほぼ回旋運動を生じない例や大きく外旋運動が生じている例を認めた.外旋変化量は膝関節外転角度ピーク値(R=.549,P=.007)との間に有意な相関を認めた.すなわち,膝関節外転角度ピーク値が大きいほど膝関節内旋ピーク後の大きな外旋変化量を示した.また,接地後40ms間での膝関節回旋角度変化は25例中22例に4.9±3.1°の内旋変化,3例に-1.9±1.0°の外旋変化を認めた.【考察】 接地後早期の膝関節外転,内旋運動はACL損傷リスクとされるが,この運動は本研究の様な非損傷場面でも多くの例で生じる運動であることが示された.Kogaら(2010)はACL損傷場面のビデオ解析で接地後40msまでの膝関節回旋角度変化は10例中8例で10.4±5.7°の内旋変化,10例中1例で16°の外旋変化が生じていたことを報告している(1例は0°).この値は本研究結果と比較して高値であり,接地後早期の急激な膝関節回旋運動がACL損傷に関係する可能性が考えられた.また,膝関節内旋ピーク後の外旋変化量は膝関節外転角度ピーク値と相関した.この結果は我々の先行研究(2009)と矛盾しない結果であり,着地動作においても膝関節外転運動と外旋運動が関連して生じていることが示唆された.着地動作時に膝関節外転角度が大きい例では外旋ストレスも加わり鷲足や膝内側側副靱帯への負荷が大きくなることが考えられた.【理学療法学研究としての意義】 本研究結果は臨床場面では詳細な評価が難しい着地動作時の膝関節回旋運動についての知見を示した.この知見は臨床家が着地動作の動作分析において膝関節回旋ストレスを予測するのに役立つだろう.

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© 2013 日本理学療法士協会
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