理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-14
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一般口述発表
足関節装具の長期使用が足関節周囲筋力,運動能力に与える影響について
石川 大瑛成田 大一高橋 信人對馬 史織澤田 徹平尾田 敦
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抄録

【はじめに、目的】 足関節捻挫(以下,捻挫)はスポーツにおいて最も発生頻度の高い下肢の外傷である。捻挫受傷後に運動能力が低下することは多く報告されており,捻挫を予防することが重要とされている。捻挫予防において足関節装具(以下,装具)は捻挫再受傷頻度を減少させることから,その有用性が示されている。装具の使用による影響に関しては,即時的,もしくは4週といった短期的には運動能力に与える影響が少ないことが報告されている。しかし体幹装具の長期使用により体幹筋力が低下することは広く知られているように,足関節装具においても同様に筋力に影響を及ぼす可能性があるが,足関節装具の長期的使用による影響を報告したものは渉猟しえない。そこで本研究では,足関節装具を1年間使用することが足関節周囲筋力,運動能力に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は弘前市内の高校女子バレーボール選手のうち,追跡調査が可能であり,全ての調査項目に欠落のない22名41足とした。調査は2年間にわたって行い,初回調査の1年後に追跡調査を行った。対象者にはアンケート調査と実地調査を行った。アンケートでは,捻挫既往の有無とその回数,装具使用の有無を調査した。また装具を使用しているものには装具依存性の有無を調査した。実地調査では足部アーチ高率,足関節筋力,片脚反復横跳び,重心動揺を測定した。足部アーチ高率は両脚立位にて足長と舟状骨高を測定し,足長(mm)に対する舟状骨高(mm)の割合(%)により算出した。足関節筋力は,ハンドヘルドダイナモメータを用い,背屈,底屈,内反,外反筋力を測定した。得られた筋力は体重で除し,体重比を採用した。片脚反復横跳びは,30cm幅を片脚にて10往復する時間を測定した。重心動揺では,重心動揺計(Anima社製,グラビコーダGS-3000)を用い開眼での10秒間の片脚立位を測定し,総軌跡長と矩形面積を採用した。実地調査は裸足にて行った。統計処理では,追跡調査の値から初回調査の値を引いた変化量をデータとして用いた。また,アンケート調査により捻挫受傷後に装具を使用している足(以下,装具使用足)と捻挫受傷後装具を使用していない足(以下,装具不使用足),捻挫の既往のない足(非捻挫足)の3群に群分けし,変化量を比較するためTukey検定を行った。統計ソフトはSPSS16.0Jを使用し,有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の趣旨を説明し,選手とその保護者から承諾を得られた者を対象とした。なお,本研究は本学医学研究科倫理委員会より承認を得て実施した。【結果】 装具使用足が7足,装具不使用足が18足,非捻挫足が16足であった。装具使用足は全例に捻挫の既往があり,装具依存性を有していた。装具使用足の捻挫回数は2.0±1.0回,装具不使用足では2.4±2.7回であった。3群を比較した結果,背屈筋力と内反筋力の変化量では,非捻挫足と比較して装具使用足に有意差な低下が認められた。外反筋力の変化量では,非捻挫足と比較して装具使用足,装具不使用足に有意差な低下が認められた。その他の項目では有意差は認められなかった。【考察】 本研究では装具の1年間の使用により背屈,内反,外反筋力が低下していた。背屈筋力の低下は捻挫受傷リスクを増大させることが報告されており,外反は足関節の内反を制動する動作である。これら筋力の低下が装具をはずした状態での捻挫受傷リスクを増大させることが推測される。そして,このことが装具依存性を出現させる要因となると考えられる。本研究では筋力を除く運動能力の成績の低下は認められず,即時的な装具使用による運動能力を検討した報告を支持するものとなった。この中では,装具により足関節運動の適切な制動と固有受容器の刺激により,運動能力を低下させることなく運動可能だと考察されている。本研究でも同様の効果があると考えられるが,装具の長期的使用によって,筋性の制動が抑制され,廃用性の筋力低下が引き起こされると考えられる。このことから装具を使用する際には筋力増強訓練も同時に指導し,筋力低下を引き起こさないようにする必要があると考えられる。本研究では全例が捻挫受傷後に装具を使用した足であったが,捻挫の予防目的で装具を使用している足に関しても検討していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究から,長期的な装具使用により筋力低下が引き起こされることが明らかとなった。足関節捻挫後に装具を使用する際には筋力増強訓練の指導も同時に行う必要性が示唆された。

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© 2013 日本理学療法士協会
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