理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-14
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一般口述発表
足関節角度の違いにより足関節後方の脛骨と踵骨間の距離は変化するか
笹代 純平浦辺 幸夫前田 慶明篠原 博藤井 絵里森山 信彰事柴 壮武
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抄録

【はじめに、目的】 足関節後方インピンジメント症候群(Posterior Ankle Impingement Syndrome; PAIS)は,バレエダンサーやサッカー選手に特徴的で,バレエのpointe肢位や,サッカーのキック動作で足関節が繰り返し強制的に底屈されることが原因であるといわれている(奥田 2010)。本症は,過度な足関節底屈によって脛骨天蓋の後方と踵骨の上方で軟部組織,骨棘,遊離小骨,骨片などが挟み込まれることで疼痛などの症状が起こるとされており(Rathurら 2009),PAISの予防は重要課題である。しかし,これらの動作のような過度な足関節底屈位をとった際に,実際に足関節後方で脛骨と踵骨の衝突が起きることを確認した研究は見当たらない。本研究は,超音波画像診断装置を用いて,健常者の足関節角度の違いによる脛骨と踵骨の位置関係の変化を観察し,過度な足関節底屈がPAISを引き起こすメカニズムを明らかにすることを目的とした。仮説は,足関節底屈角度が増大するにつれて,脛骨と踵骨間の距離が短縮するとした。【方法】 対象は現在足関節に整形外科疾患のない男性7名(年齢21.7±0.8歳,身長169.0±4.0cm,体重62.3±5.1kg)と女性8名(年齢23.0±1.5歳,身長161.0±5.1cm,体重53.1±5.8kg)の計15名30足とした。足関節底屈角度の違いによる脛骨と踵骨間の距離の測定には,超音波画像診断装置LOGIQ e Expert(GE Healthcare社)を用いた。足関節の凹凸に対し,安定した画像を確保するため水槽を利用し,水中での走査とした。測定肢位は端座位で測定を水槽の底につけた状態とし,足関節後方の脛骨天蓋から踵骨上方までを走査部位と定めた。測定条件は足関節最大背屈,背屈15°,底背屈0°,底屈15°,底屈30°,底屈45°,最大底屈の7条件とした。なお,最大背屈と最大底屈は自動運動で行った。各条件で,東大式角度計(酒井医療社)を使用し足関節角度の規定,最大背屈と最大底屈の角度測定を水槽の側面より実施した。超音波画像は静止画で記録し,装置に内蔵された解析ツールで,矢状面上での脛骨天蓋の後方と踵骨上方間の距離を計測した。統計学的解析にはStatcel 2(OMS出版社)を用いた。脛骨と踵骨間の距離について,足関節角度の7条件間での差の検定には一元配置分散分析を行い,多重比較にScheffe’s F testを用いた。男女間の差の比較には対応のないt検定を行った。危険率は5%未満を有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1231)。研究に先立ち十分な説明を行い対象の同意を得た。【結果】 最大背屈角度は男性で32.9±5.5°に対して女性で31.2±5.8°,最大底屈角度は男性で53.4±5.0°に対し女性で58.9±5.8°であった。脛骨と踵骨間の距離は足関節底屈角度の増大とともに,男性では最大背屈の528±44mmから最大底屈の227±29mmまで,女性でも最大背屈の506±24mmから最大底屈の225±25mmへと減少した。男性,女性ともに最大背屈から底屈30°(男性:272±35mm,女性:281±28mm)まで徐々に有意な減少を示したが(p<0.05),それ以降には有意差が認められなかった。【考察】 足関節を過度に底屈した際に,足関節後方でインピンジメントが起きることは一般的にいわれているものの(Hopperら 2008),生体においてこれを確認した研究は見当たらない。本研究の結果から,仮説どおり,足関節底屈角度の増大にともなって脛骨と踵骨間の距離が短縮することが確認された。しかし,男女ともに底屈30°以降でその距離に変化が少なかったことは興味深い。これらの角度ではすでに足関節後方で何らかの接触や衝突が起きており,それ以上距離が短縮しなかった可能性がある。さらに,男女間で差が認められなかったことから,足関節底屈にともなう脛骨と踵骨の接近には性差はないことが明らかとなった。本研究の限界は,装置の機能上,実際にインピンジメントが起きているであろう足関節の深部が直接確認できないことであるが,3DCTなど,他の画像診断ツールとの整合性などをみながら,今後はスポーツ選手と一般健常者との比較や,スポーツ動作中の足関節角度との関連などを検討し,PAISの予防に役立てたい。【理学療法学研究としての意義】 スポーツ理学療法の領域において,足関節底屈にともなう,足関節後方のインピンジメントに関連する脛骨と踵骨間の距離の短縮が明らかになったことは,PAISの予防を考えるうえで意義深い。

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© 2013 日本理学療法士協会
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