理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-21
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一般口述発表
サッカー競技におけるキック動作の各相の股関節周囲の応力分布と障害の関連
村上 憲治石井 壮郎宮川 俊平島田 周輔藤田 博暁石橋 英明
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抄録
【はじめに、目的】サッカー競技における股関節周囲の障害はキック動作との関連は示されているが具体的な発症機序は不明な部分が多い。しかしキック動作のバイオメカニクス的検証ではさまざまなパラメーターから一部の障害との関連性は示唆されている。しかし、それ以外の障害との関連はいまだ不明である。昨年、本学会のポスター発表にてインステップ・キック、インサイド・キック、インフロント・キックの3種類の各キック動作の股関節にかかる関節間力最大値から股関節周囲にかかる応力分布を報告した。今回、さらにキック動作における股関節周囲にかかる力学ストレスを各キック動作の各相に分け、それぞれの応力分布と股関節周囲の障害との関連性に関して検証した。【方法】サッカー経験のある健常成人男性1名(利き脚:右脚)にサッカーにおいて一般的なキック動作のインステップ・キック、インサイド・キック、インフロント・キックの3種類を各3回行わせた。その動作を3次元動作解析装置(Vicon MX × 8 :250Hz + Kistler Force Plate × 2:1000Hz) にて計測した。キック動作(脚スイング動作)相分けは、蹴り脚股関節最大伸展位、ボールインパクト位、股関節最大屈曲位の3相に分けた。解析は動力学解析ソフトウエア「SIMM」にて各キック動作の股関節関節間力と股関節関節角度を算出した。さらに同被験者のCT/MRIデータから骨強度評価ソフトウエア「MECHANICAL FINDER」にて応力解析に必要な有限要素モデルを作成した。有限要素モデルは右腸骨、仙骨、右大腿骨で構成し、モデルの範囲を腸骨上縁(腸骨稜)より大腿骨遠位端までとした。さらにモデルに各キック動作各相の股関節角度を設定し各キック動作各相の姿勢を規定した。応力解析における境界条件は、仙骨上面をx、y、z方向、仙骨耳状面をx方向、恥骨結合面をx方向で拘束する条件とし、動力学解析より算出した股関節関節間力3分力(x、y、z)を荷重条件とし大腿骨頭座標系(x、y、z)に与え与え応力解析を行った。なお、今回の計測においてボールを蹴ってはいない。【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言を十分理解した上、本研究を実施するに際し、筑波大学体育系研究倫理審査委員会の承認を得て行った。また被験者には、研究の概要、並びに参加に際し受ける利害および弊害を文章および口頭で十分説明を行い、自由意志のもと、同意を得て行った。なお、CT/MRI撮影に関して共同演者である医師の指示・立会のもと、安全に配慮し臨床放射線技師による撮影を行った。【結果】インステップ・キック、インサイド・キック、インフロント・キックの各キック動作において股関節間力が最大となる姿勢はいずれも股関節屈曲位(フォロースルー期)であった。各キック動作における股関節最大屈曲位では股関節関節間力は最大値ではなかったが他相と比べ高い値を示した。その結果より股関節最大屈曲位での股関節周囲の応力解析を行った結果、恥骨枝、寛骨臼蓋縁前上部、仙腸関節部が他部位に比べに高い応力域を示した。【考察】サッカーのキック動作における各相の股関節周囲の応力分布を検証した。キック動作において高い応力域を示す部位は、サッカーにおける股関節周囲の障害で臨床所見として確認される恥骨枝骨髄浮腫が生じる領域と一致した。 また、股関節関節唇損傷が生じやすい部位である寛骨臼蓋前上部においても高い応力域が確認され臨床所見と一致する結果となった。ただし、今回の試行では実際にボールを蹴っていない。そのためボールから受ける力学要因の検証が行われていない。そのため、実際の動作から得られるものとは一部異なる結果となった。しかし、今回の検証では関節間力が高いこと、股関節屈曲位であることが高い応力の条件となった。臨床で示唆されている関節唇損傷の要因は股関節屈曲位であることを考慮すると、これらの要因が股関節障害を発症させる一因になっていると考えることができる。サッカーにおけるキック動作において生じる障害を予防するために、関節間力を減じる方法と股関節角度を考慮すべきであると考える。 さらに今後、被験者数も含め課題動作の再考、解析条件の再設定などを行い、解析精度を向上させる必要もあると考える。【理学療法学研究としての意義】障害発症のメカニズムを解明することは障害発症を予測・予防する上で重要なことである。本研究はPC上に作成されたモデルを使用し、障害発症のシミュレーションが可能である。そのため個体要因も含め各種条件の変更が可能で、さらに再現性も高い。そこから得られる情報により障害予防や再発予防も含めた個別のプログラムの策定も可能となり、根拠に基づいたテーラーメイドなアプローチも可能と考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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