理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-21
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一般口述発表
小中学校教職員に対するスポーツ傷害および理学療法士に関する意識調査
理学療法士における職域拡大の可能性
粕山 達也石黒 友康渡邊 正利高尾 篤史
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キーワード: 職域, 傷害予防, 教育
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抄録

【目的】近年,問題視されている子どもの体力低下問題に関して,文部科学省や日本体育協会が中心となりアクティブ・チャイルド・プログラムが実施され,小中学校をはじめとした教育機関において健康増進および傷害予防に関するニーズが高まっている.我々,理学療法士において医療分野のみならず,健康増進や介護福祉など様々な分野への職域拡大は急務である.理学療法士が用いる健康増進,傷害予防,障害児支援等への知識・技術は小中学校を対象とした教育機関への導入も可能であると考えられる.そこで,本研究は小中学校教職員に対して,スポーツ傷害および理学療法士に関する意識調査を実施し,理学療法士の職域拡大の可能性について検討することを目的とした.【方法】対象は,山梨県富士河口湖町河口湖畔教育協議会に所属する小中学校教職員171名(小学校教員110名,中学校教員60名,その他1名:平均年齢41.5±11.1歳,平均教育歴17.4±11.2年)であった.対象者全員に対して,スポーツ傷害および理学療法士に関する質問紙調査を実施した. 調査項目は,1)部活およびクラブの指導経験,2)スポーツ傷害既往,3)スポーツ傷害予防への関心,4)学校内で発生するスポーツ傷害の種類,5)スポーツ傷害の原因,6)スポーツ傷害の予防法,7)スポーツ傷害について知りたい情報,8)スポーツ傷害発生時の対応,9)傷害予防についての導入希望,10)理学療法士の認知度,11)理学療法士の学校導入希望,であった.質問4,5については上位項目を挙げて点数化した.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には本研究の主旨を伝え,説明と同意の上実施した.回答の有無,回答内容によって、個人が不利益を受けることは一切無いことを周知した.回答内容は,個人が特定されないよう所属,回答者名を無記名とした.集計結果については,調査以外の目的で使用したり,個別の結果を外部に漏らさないように配慮した.個人情報の保護に十分留意し,研究終了後は電子媒体および質問紙を破棄することとした.【結果】スポーツ傷害の予防に関心があると答えたものは66%であり,関心がないと答えたものは6%であった.学校で発生するスポーツ傷害として多いと考えるものとして,打撲が最も多く,次いで捻挫,熱中症の順であった.スポーツ傷害の原因として考えられるものでは,“身体が硬い”が最も多く,次いで“筋力が弱い”,“バランスが悪い”の順となっていた.スポーツ傷害の予防法として知っているものとしては,ストレッチが99%と最も多く,専門的なSAQトレーニングや神経筋協調練習は数%であり,国際サッカー連盟(FIFA)が提唱する“The11+”を回答したものはいなかった.スポーツ傷害について知りたい情報としては,応急処置が最も多く,次いでストレッチ方法,子供への指導法の順であった.スポーツ傷害予防に関する学校への導入については,機会があれば導入したいと答えたものが71%であった.また,理学療法士の認知度について名前・仕事ともによく知っているものは6%であり,名前・仕事とも少し知っていると答えたものは51%であった.健康増進や傷害予防等で理学療法士を学校に導入して欲しいかという質問に関しては,機会があれば導入してほしいと回答したものが60%であった.【考察】教職員における調査では,スポーツ傷害の要因として筋柔軟性低下の印象が強く,対応としてストレッチや応急処置に関する具体的な手技を求める傾向にあった.体育・スポーツ系の専門的な傷害予防方法はほとんど知られていなかった.教職員の中では,スポーツ傷害予防や健康増進に関して関心を持つものが多く,理学療法士を教育機関に導入出来る可能性が示唆された.一方で,理学療法士に関する具体的な仕事内容に関して知るものは少なく,活動内容を啓発していくことが必要であると考えられる.理学療法士が持つ医学的知識と運動学的な知識を活かして,地域社会および教育機関へ貢献できる可能性が示された.【理学療法学研究としての意義】理学療法士を小中学校などの教育機関に導入していく上で,本研究は重要な基礎資料となる.また,スポーツ傷害における予防プログラムを啓発していく上で,教職員の実態を把握する有用な調査であると考えられる.今回の資料をもとに,健康増進・傷害予防を含めた教育機関への新しい戦略を立てることで,理学療法士の職域拡大につながることが期待される.

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© 2013 日本理学療法士協会
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