抄録
【はじめに、目的】 2008年4月からメタボリックシンドロームの予防・改善のために特定健診・特定保健指導が始まった。歩数は比較的活発な身体活動の客観的な指標であるとされているが、昨今発表された健康日本21の最終評価によると、身体活動・運動の分野における最大の懸念は歩数の減少であると指摘されている。最近では手軽に活動量が測定できる小型の活動量計が登場しており、歩数や運動強度、消費カロリーを算出し、データをパソコンへ転送して週や月単位で管理することが可能となっている。当院ではこのIT機器を使って、身体活動量を時系列のグラフで“見える化”し、理学療法士が適宜メールを使ってアドバイスを行っている。今回、6ヶ月間運動指導を行い、対象者の行動変容がみられたかを検討した。【方法】 対象者は2011~2012年、当院特定保健指導受診者9名(男性6名、女性3名、平均年齢54.2±5.1歳、積極的支援、動機づけ支援を含む)とした。初回に面談と運動指導を行い、その後はオムロン Calore ScanⓇ、docomoらくらくホンⓇを使用し、身体活動量を測定した。身体活動量のデータはオムロンWellness LINKⓇ、からだライフ糖尿病サポートを使用して、データをパソコンに転送し、週や月単位で管理した。理学療法士は対象者の身体活動量をホームページ上で閲覧し、定期的にメールでアドバイスや指導を行った。評価項目は、歩数、SF-8、運動セルフエフィカシーとし、統計はWilcoxonの符号付順位検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の主旨について説明し、同時に研究等へのデータ使用の同意も得た。【結果】 初期と6ヶ月後において、歩数は5,061±2,640歩から、8,967±2,022歩へ有意に増加した(P<0.05)。体重は74.5±8.7kgから、71.4±7.8kgへと有意に減少した(P<0.05)。運度セルフエフィカシーは12.3±3.9点から15.0±2.9点に、SF-8は33.0±6.2点から35.1±4.3点へと有意な差があった(P<0.05)。メール指導の回数は6ヶ月間で1人当たり平均13.2回であった。【考察】 メタボリックシンドロームと運動器疾患は密接な関係があり、膝や股関節、腰部に疼痛を抱えることが多い。そのため筋力増強など継続的で専門的な指導が必要であり、理学療法士はパソコンで対象者の身体活動量を確認してメールでの指導を行った。身体活動量が落ちている場合は、その原因を聞いて、メールでの指導または来院にて直接指導を行った。逆に身体活動量が運動開始時に急激に増加している場合は、傷害予防のために身体活動量を減らすよう指導を行った。主なメール内容は、体調確認や運動セルフエフィカシー向上を促す内容や対象者への賞賛などである。対象者からのメール内容は運動実施状況や運動後の身体状況の報告、運動強度や時間帯の相談などが多かった。実際に膝関節疾患がある対象者には自宅での筋力増強と踏み台昇降を指導し、「膝の痛みが軽減した」との言葉が聞かれた。このIT機器を用いたメリットは、時間や場所の制約がなく、対面を好まない層へのアプローチが可能であり、対象者に多くの自己決定を促して活動維持をしやすいことである。デメリットは対象者増加による指導者の負担増加、パソコンを好まない層は対象外となること、対象者がこちらからの指導に依存的になることなどが挙げられる。このようにIT機器を使って、対象者との目標の共有、セルフモニタリング指導、注意促し等の行動変容アプローチを密接に行ったことで、対象者の行動変容がみられ、結果歩数が増加し体重も減少したのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】 特定保健指導の対象者は運動器疾患を伴うことが多いため、理学療法士はリスク管理を含んだ運動指導が行えるという専門性を発揮できる。それに加えて、IT機器を活用することで、運動習慣をデータとして“見える化”し、その効率をアップさせることができる。しかし、医療機関の中で理学療法士が特定保健指導を行っているという報告は少ない。今後は積極的な参入とエビデンスの蓄積の必要性を感じた。