理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-11
会議情報

一般口述発表
足関節固定術前後における関節可動域と正座について
小俣 訓子高倉 義幸福西 梓唄 大輔高倉 義典
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに、目的】変形性足関節症や関節リウマチでみられる関節由来の疼痛および変形によって日常生活動作(以下,ADL)に支障を呈す症例に対し,足関節固定術や人工足関節置換術が行われる.足関節固定術では距腿関節を固定することにより,除痛と関節の安定性を獲得することはできるがADLへの影響がでると言われている.また,足関節固定術とADLへの影響についての報告は少ない.今回,足関節固定術後に歩行や階段昇降などで支障が少なくなるだけでなく,レクリエーションレベルのスポーツ復帰や正座も可能となった症例を経験した.そこで,当クリニックで足関節固定術前後に理学療法を行った症例の関節可動域(以下,ROM)の変化と正座動作獲得について調査したので報告する.【方法】対象は当クリニックで2009年12月~2012年6月に足関節固定術を行った変形性足関節症11例12足,年齢は39歳~79歳、平均66.5歳,男性6名(うち1名は両側)女性5名であった.術前の理学療法は,術後の筋力低下を緩やかにし,距骨下関節のROM確保,周辺にある靭帯等の柔軟性向上を目的として行った.具体的には,底背屈に作用する下腿三頭筋や前脛骨筋の筋力増強練習に加え,後脛骨筋,腓骨筋群,足趾屈筋群および伸筋群の筋力増強練習も実施した.術後については,約4週間のギプス固定後,足関節の自動底背屈運動を主体としたROM獲得練習を開始した.術後8週からはより積極的な他動的ROM練習を実施し,関節固定されていない距骨下関節,ショパール関節,リスフラン関節での代償的なROM獲得を目的として行った.正座動作については,骨癒合が確認され医師の許可を得た後に段階的に行い,ROM測定とともに実際の正座動作によって確認した.なお、ROM測定については,底屈は日本整形外科学会の測定法に準じて測定した.内がえしは日本足の外科学会の前足部と後足部の測定法に準じて両方を合計し,基本軸を下腿骨軸,移動軸を第1・第5中足骨頭で形成される足底面で測定した.術前後のROMを比較するため対応のあるt検定を用いて検討を行い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象となる足関節固定術を受けた患者各位に対し,口頭にて十分な説明を行い書面にて同意を得た.【結果】床面に何も敷かなくても疼痛なく正座が可能となった症例は12例中,9例であった.疼痛などにより足関節前面にタオル等の補高を行えば可能となった症例が3例であった.ROMについては,12足の平均±標準偏差は,底屈:術前37.0±23.3°→術後35.8±19.7°,内がえし:術前41.6±16.2°→術後48.7±5.6°であった.検定の結果,術前後で底屈について有意差が認められず(p=0.69),内がえしで有意差が認められた(p=0.03).また,期間については最短では3ヶ月半程で可能となる症例があったが大半は4~5ヶ月を要した.【考察】足関節固定術後のROM変化と正座動作獲得の可否について調査した.結果より,底屈では術前後で有意差が認められず,内がえしでは有意差を認めた.底屈に関しては,足関節固定術を施行しても術前とほぼ同等のROMを確保できることが示唆された.そして,内がえしでは術前後で可動域の改善が認められ,特に理学療法の効果があったと考えられる.先行研究では,足関節固定術後のADLに関して,術後で制限をきたすとの報告が多い.今回の結果より,正座が獲得できるまでに可動域に改善が認められた.正座動作が可能となるROMのおおよその角度は,足関節底屈角度は約35°,内がえし角度は約45°であることと考えられた.しかし,補高を要する群に関しては距骨下関節による変形と疼痛が生じており,ROM以外に周辺関節の変形と疼痛など他の要因が関連していると考えられる.よって,理学療法を行う際には距骨下関節の関節症変化や疼痛なども考慮し,多関節の代償機能が過度にならぬよう進めていく必要があると考えられる.【理学療法学研究としての意義】一般的にADL動作の獲得が難しいと言われている足関節固定術でも積極的に理学療法を行うことにより,正座動作を獲得できることが明らかになった.また,今回提示した底屈角度,内がえし角度は,足関節固定術後の理学療法において治療上の目標値として設定できると考える.
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top