理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-O-01
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一般口述発表
トレッドミル走行時の呼吸リズム調節による呼吸循環応答及び主観的疲労感の変化
一場 友実市川 貴文鴨下 旺央原崎 至人藤田 祥平芝原 美由紀石井 博之八並 光信
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抄録
【目的】生活習慣病の罹患率が増加する中、運動による予防的リハビリテーションが推奨されている。運動を行う際の呼吸法は過度の血圧上昇や過緊張を抑制するなどの効果が知られている。歩行において自然呼吸に近い吸気呼気比1:1条件で調節することにより換気効率を改善させる可能性、また呼気延長呼吸により主観的疲労感を減少させるという報告もあり、運動形態による換気効率の高い呼吸リズムについて十分な検証がされていない。そこで今回我々はトレッドミル走行中に異なる呼吸リズムによる運動を実施し、運動効率の高い呼吸リズムについて検討を行った。【方法】対象者は喫煙歴のない健常成人男性10名とし、測定2時間前の食事と前日からの激しい運動を控えた上で実施した。測定プロトコルは安静座位を3分間、安静立位を2分間、トレッドミル(MAT-7000、フクダ電子)でのウォームアップを3分間、呼吸リズムの調節を行いながら厚生労働省のエクササイズガイドの1エクササイズに相当する8km/hで8METsの強度で8分間の走行、クールダウンを2分間実施した。呼吸リズムは3歩ごとに吸気と呼気を交互に行う吸気呼気比1:1呼吸、2歩で吸気4歩で呼気と吸気呼気比が1:2となる呼気延長呼吸、比較対象として指示を与えない自然呼吸を実施した。各測定は24時間以上の間隔をあけ、呼吸法は無作為に選択し順不同とした。また測定中は随時検者2名が歩数ごとに口頭による吸気と呼気の指示を与えた。測定項目は呼気ガス分析装置(Cpex-1、インターリハ株式会社)を用いて、吸気時間(Ti)、呼気時間(Te)、酸素摂取量(VO2)、二酸化炭素排出量(VCO2)、一回換気量(TV)、呼吸数(RR)、終末期炭酸ガス濃度(FETCO2)などの換気指標を測定した。また心電図(DS-7100、フクダ電子株式会社)と呼気ガス分析装置を接続し、心拍数も同期させた。測定前後に血圧を測定し、さらに開始から測定終了まで1分ごとにBorg scaleを用いて、主観的運動強度を呼吸困難感と下肢疲労感に分けて聴取した。3回の測定終了後に3条件の主観的安楽順位を聴取した。統計処理はSPSS 16.0 Jを用いた。各換気指標は1~8分の開始直後と終了前の1分を除外した平均値で一元配置分散分析を用い、Borg scale、主観的安楽順位から得られた結果はフリードマン検定を行った。【倫理的配慮】本研究は、杏林大学倫理審査委員会の承認の下、すべての対象者に本研究の趣旨、内容、個人情報管理方法について十分に説明し、書面にて研究参加の同意を得た上で実施した。【結果】Teにおいて1:1呼吸で1:2呼吸と比べ有意に低値を示し(p<0.01) 、Tiにおいて1:1呼吸で1:2呼吸と比べ有意に高値を示した(p<0.01)。FETCO2においては1:1呼吸で1:2呼吸と比べ有意に低値を示した(p<0.05)。TVは有意差は認められなかったものの、自然呼吸で1:1呼吸と比べ低値を示し、有意な傾向が認められた (p=0.06)。呼気比率(Te/Ti)は1:1呼吸で0.97±0.09、自然呼吸で1.09±0.11、1:2呼吸では1.23±0.17であり、呼気延長は行えていたが1:2呼吸は困難であった。主観的安楽順位は有意差が認められなかったが、最も安楽であると回答のあった呼吸法は自然呼吸5名、1:1呼吸4名、1:2呼吸1名であった。【考察】FETCO2は1:1呼吸において低値を示した。運動中にPaCO2に大きな変化が認められない場合、FETCO2の増加と心拍出量の増加に相関があるとされており、心拍出量は運動強度に比例して増加することから、1:1呼吸の方が楽な呼吸リズムであったのではないかと考えられる。またTVは自然呼吸と比べ1:1呼吸で高値を示す傾向が認められた。今回は呼吸リズムの規定によりRRが固定されるため、1:1呼吸では運動中RRの増加ではなくTVの増加により換気量の確保を図り、一方で自然呼吸は自由な呼吸であり、負荷の増加に伴いRRも自由に変更が可能であったと考えられる。また呼気延長は行えたものの1:2呼吸は困難であった。以上より、FETCO2の低下、運動中の1:2呼吸が困難であったことより、1:1呼吸がトレッドミル走行において安楽な呼吸リズムであったのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究にて走行中の呼吸リズム調節の有用性を解明することにより、生活習慣病などに対する予防的リハビリテーションにおけるより効率のよい運動実施のための基礎になると考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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