理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-P-13
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ポスター発表
動的なストレッチング時の角速度の違いが関節可動域および筋力に与える影響
國田 泰弘浦辺 幸夫前田 慶明藤井 絵里河野 愛史芝 俊紀松浦 由生子
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抄録

【はじめに、目的】 ストレッチングには静的なストレッチング(static stretching ; SS)と動的なストレッチングがある.SSは関節運動を伴わず持続的にストレッチングをするのに対し,動的なストレッチングは自動的に,または他動的に関節運動を伴いながらストレッチングをする方法である.動的なストレッチングについて介入効果を検証した研究は多くみられるが,ストレッチング時の角速度を明確に規定しているものは少ない.また,角速度を規定した報告のなかでも異なる速度での動的なストレッチング後について,関節可動域および筋力の変化を検討した報告は見当たらない.本研究では立位で,足関節の底背屈を他動的に繰り返すことが可能な装置を用いてストレッチング(cyclic stretching ; CS)を行い,動的なストレッチング時の角速度の違いが関節可動域および筋力に与える影響を明らかにすることを目的とした.  【方法】 対象は足関節に疾患の既往がない健常成人24名(男性13名,女性11名,平均年齢21.5±1.3歳)とし,対象肢は利き足の下腿三頭筋とした.ストレッチングには自動足関節運動装置(丸善工業株式会社)を用い,1)SS,2)5°/ sのCS(slow CS ; SCS),3)10°/ sのCS(fast CS ; FCS)の3条件のプログラムをそれぞれ2分間行った.SSは足関節最大背屈位で,CSは最大背屈位と最大背屈位から12°減じた角度の間で底背屈を繰り返すストレッチングプログラムを行った.各プログラム前後に足関節背屈角度および足関節底屈筋力を測定し,プログラム間は最低5日以上の間隔をあけ,全対象で3条件のプログラムをランダムに割り当て試行した.足関節最大背屈角度は装置上で立位をとり,足部のステップを1°ずつ上昇させ測定した.足関節底屈筋力は背中を壁につけた状態で長座位をとり,骨盤帯と足部を結ぶベルトで徒手筋力計(μtasF1,ANIMA社)を足底に固定し,足関節底背屈0°にて下腿三頭筋の最大等尺性収縮を測定した.各ストレッチング前後の角度および筋力を対応のあるt検定を用いて比較した.また,3条件間でのストレッチング前後の改善角度,筋力変化量の比較には一元配置分散分析を用い,多重比較検定としてTukey法を用いた.いずれも危険率5%未満を有意とした.【倫理的配慮、説明と同意】 全対象に本研究の趣旨を十分に説明し,書面にて同意を得た.なお,本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1229).【結果】 改善角度はSS 4.3±1.2°,SCS 3.1±1.2°,FCS 3.7±1.7°となり,各条件の前後で有意に改善した(p<0.01).筋力変化量はSS -14.0±17.0 N,SCS 7.7±20.2 N,FCS 9.5±22.6 Nとなり,SSのみストレッチング後で有意に減少した(p<0.01).3条件間の比較では改善角度においてSSとSCS間に有意差があり(p<0.05),筋力変化量においてはSSとSCS間,SSとFCS間で有意差を認めた(p<0.01).【考察】 本研究結果から,SSは改善角度が大きいが直後に筋力低下が起こることが示された.SSで筋力低下が起こることは多くの報告で示されており,本研究でも同様の結果が得られた.それに対してSCS,FCSは筋力が低下しないことが示され,特にFCSはSSと比べ改善角度に有意な差はなかった.CSはSSとは異なり他動的に下腿三頭筋の伸張-弛緩を繰り返す.そのためSSよりも血流量改善による筋温の上昇や(今戸,2007),筋の粘性の減少が生じた可能性があり(Esteki and Mansour,1996),筋力低下が起こらなかったと考える.また,CS以外の他動的かつ動的なストレッチングとしてballistic stretching(BS)がある.BSは反動をつけ体重などにより筋を伸張するため,急激な伸張により筋や腱への負担が大きいとされている.一方で,CSの角速度は5~10°/sであり,ストレッチング最中に伸張反射が生じる可能性が低いため(Gajdosik et al,2005),BSよりも筋や腱への負荷が小さく安全なストレッチングであると考えられる.さらに,ストレッチングの時間を3条件全て2分間で行ったが,最大背屈位で伸張されている時間はSSが最も長いため,今後はCSの伸張時間や可動範囲の違いで,効果を検証していく必要があると考える.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果より,cyclic stretching後に筋力低下を起こさずに足関節背屈可動域の向上が得られることが示された.臨床場面やスポーツ現場で,活動直前に関節可動域を改善させ,かつ筋力低下を起こしたくないケースなどで適応があると考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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