抄録
【はじめに】 鹿児島市では、鹿児島県理学療法士協会が市よりの委託事業として転倒骨折予防教室(以下、教室)を年間約240ヶ所実施しており、予防の重要性に着目して教室を展開している。第32回九州PT・OT合同学会において、教室参加者を対象に生活環境状況についてのアンケートを実施し報告した。その中で、一年以内に転倒を経験した方が14.8%おられ、身体活動にも不安を訴えられていた。村上によると高齢者の転倒は、中年期からの身体活動の質と量、生活習慣の長い積み重ねが最大の原因であり、適切な運動・生活指導および教育により、身体機能を活性化させる事が転倒の予防に重要と述べている。運動の習慣化については身体活動の意識の向上や指導する側の積極的な働きかけが必要と考えた。そこで今回、教室参加者に対し運動の習慣と運動器症候群(ロコモティブシンドローム;以下、ロコモ)について状況調査を行い、さらに教室指導者側(以下、指導者)にアンケートを行い教室への介入における質向上のための調査を行ったので報告する。【対象および方法】 平成23年度に鹿児島市内で開催された教室のうち、無作為に選定した教室68ヶ所の参加者1476名を対象に無記名方式でアンケート調査を実施した。参加者は、男性227名(平均年齢77.2±7.1歳)・女性1249名(平均年齢76.2±8.0歳)であった。設問は、1)定期的な運動の有無及び運動の種類・2)体力や健康の不安・3)一年以内の転倒の有無・4)ロコモの認識度とロコモーションチェックとした。転倒の有無についてはχ2検定を用い検討した。有意水準は5%未満とした。 指導者は、9施設41名を対象にアンケート調査を実施した。指導者の理学療法士経験年数は9.2±7.2年で、教室指導経験年数は3.2±2.4年であった。設問は、1)重点指導内容・2)実技(体操)指導内容・3)運動の習慣化・4)転倒予防効果についてであった。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には、調査の趣旨を口頭説明し同意を得た上で回答を回収した。【結果及び考察】 参加者の定期的な運動は、している69.1%・していない17.8%・しようと思っている13.1%であった。している方の運動の種類としては、ウォーキング・体操・グランドゴルフが多く、色々な種目で運動をしている。しかし、農作業や草取りなどの回答があり、生活活動を運動として理解しておられる参加者もおられ今後の説明の必要性を感じた。運動をしようと思っている方においてウォーキングを希望される方が多く、運動の習慣と効用についての理解を求め、正しいウォーキングについての指導も取り入れていかなければならない。運動の頻度としては、週7回36.8%・週3回16.1%と多く、グランドゴルフに比べ個人種目でもあるウォーキングや体操は毎日取り組まれていた。体力や健康の不安がある方は、52.5%と半数を超えていた。内容としては、膝・腰部の痛みを主体とした関節障害が49.1%となり、次に転倒・歩行の不安の回答が多かった。 ロコモの認識度では、知っている方が21.7%で知らなかった方が78.3%となり認知の状況は不十分で教室内での啓発が必要だと感じた。ロコモーションチェックでは、片脚立ちで靴下が履けないと階段を上がるのに手すりが必要であると回答された方が多かった。バランス能力と大腿四頭筋筋力の低下を伺わせた。1年以内に転倒された方の割合は、15.8%となり、前回の調査と変わらなかった。転倒経験者が定期的な運動に取り組んでいる状況は前述の割合と変わりなかったが、体力や健康の不安がある方は非転倒経験群が47.1%であるのに対し転倒経験群は77.0%と有意な差があった。さらに、ロコモーションチェックの該当者は、非転倒経験群が49.3%であるのに対し転倒経験群は72.7%と有意な運動機能の低下が伺えた。 指導者側の重点指導内容としては、講義57.8%・実技35.6%となり各教室年一回の開催で転倒に対する理解してもらう為にパンフレットを利用した講義主体にならざる負えないためではないかと考える。実技指導内容としては、対象の安全面と負担度合を考慮して座位・臥位での運動を主体として指導されていた。運動の習慣化には、具体的な運動の提案とグループワークが必要であり、その為には教室以外でも継続していけるような環境作りと運動の意識付けをして対象者自身へ自己能力認識をしてもらうことが課題となる。転倒経験者の割合が前回のアンケート調査時と変化がなかったことは、この教室の一定の効果を示すものではあるが、地域高齢者に対し教室以外での積極的な働きかけやロコモの普及を推し進めることが重要と考える。【理学療法学研究としての意義】 教室で指導する側とされる側の意識と現時点での転倒骨折予防啓発の問題点を明らかにすることが可能となり、今後、教室を展開する上で専門性をどう活かしていくか施設間で協議する。