理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: F-O-01
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一般口述発表
正弦波電気刺激による下腿深層筋の廃用性萎縮に対する予防効果
田中 稔平山 佑介藤田 直人藤野 英己
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抄録

【はじめに、目的】身体深層に位置する骨格筋の萎縮は、関節の安定性や姿勢調節機能を低下させ、高齢者の歩行能力低下や易転倒性を惹起する。また、深層の骨格筋は遅筋線維で構成されるために筋萎縮が助長されやすい。このため廃用性筋萎縮の予防は深層筋に着目して介入する必要がある。一方、筋萎縮の予防手段として、治療的電気刺激(TES)は広く使用されているが、矩形波電流が用いられている。矩形波電流は浅層筋を刺激するには適しているが、皮下脂肪の通過時に波形が歪むため、深層筋に到達しない可能性が示唆される。一方、正弦波電流では皮下脂肪の通過時に波形が歪まないと報告されているため、矩形波電流より深層へ到達すると予想される。そこで、本研究では筋萎縮における正弦波電気刺激と矩形波電気刺激の深層筋への効果を比較した。【方法】全ての実験には20週齢の雄性SDラットを用いた。電気刺激の深部到達度は、in vivoの筋張力で確認した。矩形波及び正弦波電流を用いて、超最大刺激で下腿三頭筋を刺激し張力を測定した。次に下腿三頭筋からヒラメ筋を切離し、電気刺激し、ヒラメ筋切離後における張力の減衰率を算出した。また、筋萎縮予防効果を検証するため、ラットを対照群(Cont)、後肢非荷重群(HU)、後肢非荷重期間中にTESを実施した群に区分した。TESは後肢非荷重開始日の翌日から行い、左下腿後面には矩形波電流(r-ES)、右下腿後面には正弦波電流(s-ES)を用いて、経皮的に実施した。r-ES群とs-ES群ともに刺激周波数は100Hzとし、等尺性収縮にて超最大刺激となる強度を用いた。2週間の後肢非荷重期間終了後、腓腹筋とヒラメ筋を摘出し、作製した切片にATPase染色(pH4.5)を施し、染色所見より筋線維横断面積を計測した。また、ヒラメ筋のユビキチン化タンパク質の発現量をWestern Blot法により測定した。測定データの統計解析には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての実験は所属機関における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の承認を得たうえで実施した。【結果】下腿三頭筋からヒラメ筋を切離した後の筋張力は、正弦波電気刺激では9.1%減衰したが、矩形波電気刺激では減衰しなかった。この結果から、深層筋への到達効果は矩形波電流より正弦波電流が高いと確認された。筋線維横断面積は、腓腹筋の浅層と深層、及びヒラメ筋で、HU群はCont群に比べて有意に低値を示した。腓腹筋浅層の筋線維横断面積では、r-ES群とs-ES群はHU群に比べて有意に高値を示した。腓腹筋深層の筋線維横断面積では、r-ES群とHU群の間に有意差を認めなかったが、s-ES群はHU群に比べて有意に高値を示した。さらにヒラメ筋の筋線維横断面積では、r-ES群とHU群の間に有意差を認めなかったが、s-ES群はHU群に比べて有意に高値を示し、さらにs-ES群はr-ES群に比べて有意に高値を示した。ヒラメ筋のユビキチン化タンパク質発現量は、HU群はCont群に比べて有意に増加し、HU群とr-ES群の間に有意差を認めなかった。一方、s-ES群におけるユビキチン化タンパク質の発現量は、HU群とr-ES群に比べて有意に減少した。【考察】深層筋における正弦波電流の到達効果は矩形波電流より高かった。生体においてコンデンサの役割をする皮下脂肪は、直流電流の電荷を蓄えるため、時間に反比例して電流値を減少させ、波形に歪みを生じさせる(Petrofsky,2008)。これに対し、交流電流は電流の正負が変化することでコンデンサに電荷が蓄積されず、波形に歪みを生じない(Petrofsky,2008)。このため本研究で用いた交流電流である正弦波は矩形波に比べて波形の歪みが少なく、電流が深層のヒラメ筋まで到達し、深層筋に萎縮予防効果があったものと考えられる。また、正弦波電流では、タンパク質のユビキチン化による分解系を抑制し、深層のヒラメ筋まで萎縮予防の効果が得られたものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】深層筋に対する萎縮予防手段の確立は、転倒予防や早期離床の観点から非常に重要である。本研究で用いた正弦波電流によるTESは、従来の矩形波電流によるTESでは困難であった深層筋の萎縮に対する新たな予防的手段になり得る可能性が示唆されたため、理学療法分野において意義があると考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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