理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: F-O-01
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一般口述発表
自発運動収縮と電気刺激収縮を組み合わせた新しい自転車エルゴメータの開発と高齢者に対する運動効果
高野 吉朗田川 善彦塚田 裕也神谷 俊次松瀬 博夫志波 直人
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抄録

【はじめに】 高齢者の加齢による筋力低下に伴う運動機能低下は,日常生活活動能力の低下を引き起こす.このような低下に対し,レジスタンストレーニングにより筋力や運動機能が改善されることは知られている.運動方法の一つである自転車エルゴメータ(以下:エルゴ)は,リハビリテーション医療や高齢者の健康増進に広く使われているが,有酸素運動主体の持久力向上プログラムとして確立されており,筋力改善効果に関して意見は様々である.一方電気刺激療法は,術後固定患者や自発運動が困難な患者に有効な運動方法であり,古くから臨床で使用されている.今回我々は,自発運動収縮と電気刺激収縮を組み合わせたエルゴによる新しい運動方法を開発した.本研究の目的は,この運動方法が高齢者の筋力や運動機能に有効的であるかを検証するものである.【方法】 対象者は地域在住の健常高齢者男性12名で,電気刺激を加えた新しい運動方法を行う群(ES群)6名(72.50±5.86歳)とエルゴ運動のみ行う群(Ctrl群)6名(70.83±5.12歳)に分けられた.ES群の運動システムは,電気刺激装置,エルゴ,パソコン(以下:PC),椅子から構成される.電気刺激は,運動中における膝関節の角度情報がPCに送られ,PC上で設定した指令値が電気刺激装置に送られ,対象筋へ印加される.電気刺激対象筋は,両大殿筋とハムストリングスであり,各2チャンネル両下肢合計で4チャンネルとした.電気刺激波形は,両相矩形波で,搬送波周波数は5kHz,刺激幅は2.4ms,刺激周波数は40Hzとした.運動に使用する電気刺激強度は最大耐用電圧の80%とした.電気刺激区間は,事前にどの角度でどの筋を刺激するか設定されており,例えば大殿筋の刺激区間は,1周期における股関節屈曲動作開始から終了までである.一方Ctrl群は,ES群が使用する同じエルゴを用いて無負荷の自発運動のみ行った.対象者は1回約15分間の運動を週2回6週間(計12回)行った.評価項目は,筋力(股関節屈曲・伸展,膝関節屈曲・伸展),運動機能(10m最大歩行速度,開眼片脚立ち,5回椅子立ち上がり,階段昇降,6分間歩行)であった.統計解析は,各群の介入前後の比較にWilcoxon符号付順位検定を用いた.統計解析ソフトはSPSS for windows version 14.0J (SPSS Japan社) を用い,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,開始前に久留米大学医学部倫理委員会の承認を得て行われた.対象者には,本研究の目的,運動方法や危険性を口頭と文章で説明し書面で同意を得た.また,対象者からの申し出により研究途中でも中止出来ることを保証した.【結果】 膝関節屈曲(ES群36% vs Crtl群18%)・伸展(ES群26% vs Crtl群10%),10m最大歩行速度(ES群22% vs Crtl群11%),5回椅子立ち上がり(ES群18% vs Crtl群24%),階段昇降(ES群19%のみ)において有意な改善が認められた.他の項目は有意な改善は認められなかった.【考察】 本研究の目的は,新しく開発したエルゴが,高齢者の筋力や運動機能改善に安全で有効であるかを検証することであった.本研究の結果,ES群で膝関節屈曲・伸展筋力,10m最大歩行速度,5回椅子立ち上がり,階段昇降において有意な改善が認められた.ES群で膝屈曲筋力(ハムストリングス)に大きな改善が認められた理由は,自発運動収縮によるTypeI線維優位と電気刺激によるTypeⅡ線維優位の交互収縮により,Ctrl群の単独自発運動収縮より大きな筋張力を発揮できたこと推察される.多くの運動機能の改善は膝関節筋力の改善に寄ると推察される.股関節筋力に有意な改善は認められなかった理由は,運動中における股関節可動域の狭さから電気刺激で生み出す運動負荷が不十分であったと考えられる.本研究の限界として,対象者数が少ない事や電気刺激による運動負荷量が不明であり,運動プログラムとしての検証は不十分であり,これらは今後の課題としたい.【理学療法学研究としての意義】 新しく開発した自発運動収縮と電気刺激収縮を組み合わせたエルゴが,筋力と運動機能に改善が認められたことで,有用な運動方法であることが示唆された.本運動法は,将来高齢者の理学療法プログラムに貢献出来る可能性が期待される.

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© 2013 日本理学療法士協会
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