理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: E-O-15
会議情報

一般口述発表
HAL装着歩行時の精神心理的ストレスに関する研究
須藤 由貴林 英里奈川浦 真紀亀井 裕貴江口 勝彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに、目的】 現在,運動機能が低下した患者のリハビリテーションでは,様々な義肢装具などが利用されている.ロボットスーツHAL( 以下HAL) もその一つである.HALとは,身体運動機能の補助・増幅・拡張を可能とする世界初のサイボーグ型ロボットであり,筋力が低下した高齢者や運動機能障害を有する患者のリハビリテーション,自立生活支援,重労働となる介護負荷を軽減することができると期待されている. 一般的に,身体障害に対する義肢や装具,あるいは義歯や補聴器なども,多かれ少なかれ装着することそのものがストレスになったり,不快感を喚起したりすることがあるといわれている.HALの主な適応は,消化管出血を合併しやすい脊髄損傷や循環器疾患である脳卒中による運動障害であり,リスク管理の面からもストレスは無視できないと考える.しかしながらHAL装着歩行時の精神心理的ストレスについての研究は,あまりなされていない. 本研究の目的は,HAL装着が歩行時の精神心理面的ストレスにどのような影響を及ぼすかを明確にすることであり,今回は基礎的データを得る目的で健常者を対象に実験を行った.【方法】 対象は健常若年成人男性15名(平均年齢20.6±1.0歳,平均身長166.3±4.6cm,平均体重61.6±7.9Kg)であった.対象全員に対し,条件1: HAL非装着,条件2: HAL装着の2条件で16mの直線歩行を行わせ,歩行前後の心拍数,収縮期血圧,唾液アミラーゼ活性,心電図および心理的ストレス反応尺度(PSRS-50R)を測定し検討した.2条件の順序はランダムに施行した.歩行速度は快適歩行速度とした.HALの制御モード設定は,HALの装着重量をキャンセルするが,積極的なアシストは行わない「粘性補償制御モード(Viscosity Compensation Controlモード:以下VISモード)」で,Walkモードの歩行速度最大にて実施した.測定した心電図からR-R間隔の高速フーリエ変換による周波数解析を行い低周波成分(LF),高周波成分(HF)からLF/HFを算出した.心拍数,収縮期血圧,交感神経活動の指標として唾液アミラーゼ活性,副交感神経活動の指標としてLF/HFの歩行前後の変化率を求め,2条件間で対応のあるt検定を用い検討した. PSRS-50Rは,情動項目18項目(うつ6項目・不安6項目・怒り6項目)の点数について,安静時,HAL装着歩行後,HAL非装着歩行後の3条件でWilcoxonの符号付順位検定を行い検討した.いずれも危険率は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,本研究の目的,方法,参加による利益と不利益などの説明を十分に行い,同意を得た.対象者は全員自らの意思で参加した.また,本研究は本学研究倫理委員会の規定に基づき,卒業研究倫理審査により承認され実施した.【結果】 HAL装着・非装着歩行での心拍数,収縮期血圧,唾液アミラーゼ活性,LF/HFの変化率に有意差は見られなかった.PSRS-50Rでは,うつ項目点数(p=0.0015)と怒り項目点数(p=0.0007)が歩行後に有意に低下した.不安項目(p=0.1868)については,有意差が見られなかった.【考察】 HALの装着は心理的ストレスを与えにくい事が分かった.生理学的指標では心拍数や収縮期血圧のみならず自律神経に及ぼす影響も少なかった.むしろ実験前に感じていた不安が実際の歩行後軽減したのか,不安尺度の情動項目中,うつ項目と怒り項目で点数が有意に下がっていたことから,HAL導入前の十分なオリエンテーションなどで不安を軽減させておく必要が伺われる.健常人では,HAL装着が歩行時の心理的ストレッサーにはなっていなかったが,今後は実際の患者を対象とした研究を進め,HAL装着の精神心理面に対する影響を明らかにしたい.【理学療法学研究としての意義】 HALをより安全に活用するために,HAL装着が歩行時の精神心理面に対するストレスにどのような影響を及ぼすかを明確にすることは重要であり,本研究により貴重な基礎的データが得られたと考える.
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top