理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-20
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一般口述発表
段階的鏡療法が疼痛の軽減に奏効した末梢性求心路遮断性疼痛症例
壬生 彰西上 智彦山本 昇吾梶原 沙央里岸下 修三松﨑 浩田辺 暁人
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抄録

【はじめに】切断後や腕神経叢麻痺後の末梢性求心路遮断性疼痛に対して鏡療法の疼痛軽減効果が報告されているが,効果が限定的な症例も存在する.鏡療法においては,患肢の運動イメージ獲得が重要であり,運動イメージが獲得可能になると,疼痛の軽減が認められることが多い.これまでの鏡療法は健肢を鏡に映し,自由に運動させ,あたかも患肢が動いているような鏡像を観察させ,患肢が同様の運動をしているようにイメージさせるといった方法が行われているが,この手法のみでは患肢の運動をイメージすることが困難な症例も存在する.今回,20年以上前に受傷した腕神経叢引き抜き損傷後の末梢性求心路遮断性疼痛症例に対して,従来の鏡療法では疼痛軽減効果が限定的であったが,難易度を段階的に調整する段階的鏡療法を実施することで患肢の運動イメージが獲得可能となり,更なる疼痛の軽減を認めた経過を報告する.【方法】40歳代男性.23年前に交通事故にて受傷し全型の右腕神経叢引き抜き損傷となる.右肩関節より遠位は拘縮しており,筋収縮は認められなかった.表在感覚,深部感覚ともに右肘関節より遠位は完全に脱失していた.安静時痛は右上腕遠位部から手指にかけてしびれを伴う持続する痛みがNumerical Rating Scale(NRS)で8-10であった.特に手指の痛みが強く,「ねじられるような痛み」であった.服薬状況はロキソニン及びメチコバールをそれぞれ1日3回服用していた.本症例に対し,週2回の頻度で鏡療法を実施した.住谷らの方法を参考に,身体正中矢状面に鏡を置き,健肢を鏡に映し,鏡面に患肢が存在しているように設定し,鏡を見ながら健側の肘関節,手関節及び手指の屈曲・伸展運動をさせ,同時に患肢が鏡像肢と同様の運動をしているようにイメージさせた.開始当初は運動イメージが困難であり,特に握り運動については,手指が「締め付けられる感じ」と疼痛の増強を訴えた.そこで,運動イメージを伴わない鏡像肢の運動の観察から運動イメージを伴う課題へと移行していった.それにより,徐々に患肢の肘関節,手関節の運動イメージは可能となった.手指は,母指,示指,中指の運動イメージが可能となり,NRSで6-8と疼痛も軽減した.しかし,環指,小指は常に中手指節間関節・指節間関節が屈曲位で固定され,全く動くイメージができず,イメージしようとすることで痺れ,疼痛の増強が生じた.そこで,鏡療法開始2ヶ月後より,まず,環指・小指の伸展位のイメージを生成するために視覚情報入力を工夫した.健肢の手掌と小指先端の間に異なる長さの3種類の棒を順に挟み,徐々に屈曲位から伸展位に角度を変化させた.それぞれの屈曲角度の時に鏡像肢を観察し,患肢のイメージを鏡像肢の屈曲角度と一致させるように想起させたところ,伸展位のイメージが可能となり痛みが軽減した.次に,小指の運動イメージを生成するため,セラピストによる健側小指の自動介助運動を行い,鏡像肢を観察しながら患肢で同じ運動を想起させたところ,運動イメージが可能となった。【倫理的配慮、説明と同意】本症例に対し,本報告の趣旨を説明し同意を得た.【結果】環指,小指の伸展位のイメージや運動イメージが可能となることで,鏡療法中は疼痛がNRS5へと軽減した.完全伸展位のイメージが可能になると痛みが完全に消失し,しびれのみの状態となった.この状態は30分程度保持された.安静時痛は環指,小指がNRS9-10と開始時と同様な疼痛であったが,その他の部位はNRS6と軽減を認めた.また,鏡療法開始3ヶ月後には服薬を中止することが可能となった.【考察】住谷らは鏡療法の治療機序として,鏡からの視覚情報により患肢からの不十分な体性感覚情報の入力を代償することで患肢の知覚-運動ループが再統合され,疼痛が軽減すると考察している.本症例は従来の鏡療法では運動イメージの獲得が不十分であり,疼痛軽減効果も限定的であった.鏡療法中の患側手指のイメージは環指・小指が屈曲位で固定されており,視覚情報との不一致により疼痛が増強した可能性があり,従来の鏡療法では難易度が高いことが考えられた.そこで,まず,視覚情報を増加させ,より患肢からの体性感覚情報の入力を代償し,伸展位のイメージが可能となった結果,疼痛が軽減し,次の段階として,セラピストによる自動介助運動を実施することで,患肢の運動イメージが可能となり,更なる疼痛の軽減が得られたと考える.【理学療法学研究としての意義】求心路遮断性疼痛に対する鏡療法において,効果が不十分な症例に対して本症例のように段階的鏡療法を行うことで疼痛を軽減させる可能性を示唆した点.

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© 2013 日本理学療法士協会
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