理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-O-20
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一般口述発表
下肢筋の筋力発生率と外乱刺激時の立位保持との関係
井上 純爾大重 努向井 陵一郎小栢 進也岩田 晃淵岡 聡
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抄録

【はじめに、目的】外乱刺激時の立位保持は、体性感覚、前庭感覚、視覚などを統合した種々の姿勢反応により、重心移動を最小限に留めるような制御が行われており、筋活動や重心移動のパラメータを評価指標とした研究が多く報告されている。一方、瞬間的な筋力発揮特性の指標である筋力発生率(rate of force development;以下RFD)は転倒歴や歩行時のスリップ、バランス能力との関連が報告されており、外乱刺激直後の姿勢保持反応との関連が推測される。本研究では,立位姿勢における体幹への外乱刺激時の骨盤の移動量ならびに移動速度と、下肢筋群のRFDとの関連を明らかにすることを目的に、三次元動作解析による分析を行った。【方法】対象は健常成人女性17名とした。測定項目は身長、体重、筋力(膝関節屈曲•伸展、足関節底屈•背屈の等尺性最大筋力)、外乱刺激時の骨盤の最大移動量および移動速度とした。筋力は固定式ダイナモメーター(BIODEX system3)を用いて、膝関節屈曲•伸展は膝関節屈曲75°、足関節底屈•背屈は膝関節屈曲60°、足関節底背屈0°にて、目前のLEDランプが点灯したと同時にできるだけ速く強く力を入れるように指示し、3回ずつ計測し、最大値を解析に用いた。その時の力―時間曲線において筋力が5Nmを超えた時点を筋力発揮開始と規定し、RFDと反応時間を算出した。RFDは筋力発揮開始後50msec、100msecの筋力値から単位時間当たりの値を算出した(以下、50RFD、100RFD)。なお、筋力とRFDは体重で除し、標準化した。外乱刺激については被験者の腰部(腸骨稜の高さ)に前後2箇所に紐をつけたベルトを装着し、水平方向に体重の4%の力で引く装置を作成した。静止立位の被験者に対して前後から無作為に2回ずつ不意に外乱刺激を加え、三次元動作解析装置(VICON NEXUS)で記録した。前後とも2回目のデータを解析に用い、両上前腸骨棘の中点の最大移動量と移動速度を算出した。各測定項目の関連はPearsonの積率相関係数を算出して検討した。統計解析にはJMP10.0を用い、有意確率は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本学研究倫理委員会の承認を得た後、全ての対象者に本研究の内容および測定データの使用目的について口頭ならびに文書を用いて十分な説明を行い、書面による任意の同意を得た。【結果】対象の属性の平均値および標準偏差は、年齢21.8±1.3歳、身長158.0±4.0cm、体重50.4±4.3kg、BMI20.2±1.2であった。測定の結果は同様に、膝関節屈曲において筋力1.0±0.2Nm/kg、50RFD6.9±2.2Nm/kg/sec、100RFD5.7±1.6Nm/kg/sec、膝関節伸展において筋力2.6±0.5Nm/kg、50RFD13.5±4.5Nm/kg/sec、100RFD11.4±3.5Nm/kg/sec、骨盤の前方への最大移動量(以下、骨盤前移動)22.3±9.9mm、移動速度(以下、骨盤前速度)9.0±2.1mm/secであった。これらの結果の関係は、膝関節屈曲50RFD と骨盤前移動(r=-0.52、p<0.05)および骨盤前速度(r=-0.60、p<0.05)、膝関節屈曲100RFD と骨盤前移動(r=-0.63、p<0.01)および骨盤前速度(r=-0.49、p<0.05)、膝関節伸展50RFDと骨盤前移動(r=-0.52、p<0.05)、膝関節伸展100RFDと骨盤前移動(r=-0.62、p<0.01)に負の相関がみられた。膝関節屈曲•伸展筋力および下肢筋の反応時間と骨盤前移動および骨盤前速度には有意な相関がみられなかった。また、足関節筋力およびRFDと骨盤の最大移動量、移動速度には関連がみられなかった。【考察】RFDは短時間で強い力を産生する能力の指標であり、膝関節屈曲および伸展のRFDが大きいほど、体幹に不意な外乱刺激が加わった時の骨盤の前方への最大移動量および移動速度が小さいことが明らかとなった。不意な外乱刺激に対して立位姿勢を保持するためには、外乱刺激直後の筋の反応時間およびRFDが重要と考えられる。本研究で下肢筋の反応時間と骨盤移動に関連がみられなかったため、骨盤前移動と骨盤前速度が小さくなった要因としてRFDが大きく関与していることが示唆された。また、骨盤前移動および骨盤前速度と筋力には相関がみられず、50RFDおよび100RFDには相関がみられたため、不意の外乱刺激に対する立位保持能力は最大筋力よりも、筋力発生率と関連があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】外乱刺激時の立位保持には、最大筋力よりも短時間で強い力を発揮できる能力が重要である可能性を示唆するものであり、立位保持能力向上や転倒予防対策における介入手段の検討に有用と考える。

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© 2013 日本理学療法士協会
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