理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-41
会議情報

ポスター発表
ミラーセラピーにおける上肢位置の影響について(第2報)
岩坂 憂児坂上 尚穂
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【はじめに、目的】ミラーセラピー(以下MT)はラマチャンドラン(1995)らが幻肢の改善のために実施した治療法であり、近年では脳血管障害患者に対して実施し改善を示唆する研究も見られている(平野ら,2008 など)。しかしながら実際にMTを実施するときには、鏡像と同様の位置にターゲットとなりうる肢を置くことができないことも十分に考えられる。我々は第46 回日本理学療法学会学術大会でMTを実施するときの上肢位置はパフォーマンスに影響を及ぼさないことを報告した。しかしながら、前回の課題は書字動作という個人技術によって左右されうるものであり、かつ上肢位置の固定が徒手によるものであり一定性が確保されなかったという問題もあった。そのため、今回はこの二つの問題を改善し、改めて研究を行った。【方法】上肢に整形外科的・神経内科的疾患の既往を持たない健常成人21 名を被験者(男性7 名、女性14 名、平均年齢19.8 ± 3.8 歳)とした。被験者を(1)対照群:一切の介入を行わない群(2)MT一致群:鏡像と同様の位置にターゲットとなりうる肢をおく群(3)MT不一致群:鏡像と異なる位置にターゲット肢をおく群の3 群にランダムに振り分けた。全ての群で練習側を直接見せないように箱で覆う、肩関節の外旋角度以外の影響を排するために肘関節90 度、前腕回外位でシーネ固定を行なった。課題は新規性を確保するために、Kawashimaら(1996)が用いた小球回転課題を用い、左手での10 秒間の回転数(3 回実施)を測定値とした。介入手順は(1)対照群:介入を行なわず、20 秒間ボールを落ちない程度に握ってもらい40 秒休憩を10回実施(2)MT群および不一致群:右手で20 秒× 10 回(運動間隔は40 秒)の練習し、鏡に映る腕を観察とした。練習中には5 回終了時に「残り5 回です」9 回終了時に「あと1 回です」と教示した。統計処理は二元配置の分散分析を採用し、有意差が得られた場合には多重比較(Bonferroni法)を実施した。また統計処理にはRを使用した。【倫理的配慮、説明と同意】被験者には研究の目的および身体に及ぶ影響と実験への自由参加の権利について十分に口頭および書面で説明し、同意を得た。【結果】ボール回転数のそれぞれの平均について、対照群は介入前6.64 ± 4.09 回・介入後8.07 ± 4.53 回、MT群7.71 ± 3.20回・介入後11.64 ± 2.21 回、不一致群7.57 ± 4.48 回・介入後11.79 ± 2.97 回であった。介入前後と群間に主効果が見られたため(介入前後:F(1.84)=15.79、p<0.01、群間:F(1.84)=3.71、p<0.05)多重比較を行った結果、介入後において対照群とMT群、不一致群との間に有意差を認めたが、MT群と不一致群との間には有意差を認めなかった。【考察】MTは運動イメージと視覚的フィードバックによるミラーニューロンシステムの賦活化が関与していると考えられている。運動イメージは身体図式を基にして想起されることが考えられており、その身体図式はオンライン上の身体位置に影響を受けることが示唆されている(例えば鶴谷,大東,2007)。そのため、鏡を介して入ってくる視覚情報と実際の位置関係との間に相違がある不一致群ではMT群よりも効果が低い可能性が考えられたが、本研究では見られなかった。仮説として考えられるものとして(1)学習転移効果がMTの効果を不明瞭にしてしまったか(2)いわゆるラバーハンド現象が起こってしまい、不一致群においてもMT群と同様に鏡像を自分の手と解釈されたことが考えられた。本研究では上記の可能性を両方とも否定することはできないため、今後これらを明確に区分するための方法がさらに必要であると考えられる。しかしながら、本研究から少なくとも健常者においては、MTでの上肢の位置はそのパフォーマンスに影響を及ぼさないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、今後ミラーセラピーを導入するに当たって重要な視点を与えるものと考える。
著者関連情報
© 2013 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top