理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-41
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ポスター発表
12.5Hzの全身振動負荷が健常者の坐位姿勢制御に及ぼす影響
岩月 宏泰神成 一哉髙橋 廣彰
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抄録

【目的】全身振動(Whole body vibration:WBV)トレーニングは特殊な機器上で立位,坐位などの姿勢を取らせて全身を機械的に振動するものである。即時的効果としては,筋柔軟性,筋温上昇という局所のものと,立位バランスや歩容の改善,パフォーマンスの向上などという全身に及ぶものが既に報告されている。WBVによる生理学的変化は足底からの振動刺激が内耳の前庭器,骨格筋,筋交感神経活動を刺激することと,内臓振盪の関与によると考えられている。しかし, 20Hz 未満のWBVの負荷時間による立位及び坐位姿勢制御に及ぼす効果は未だ明らかにされていない。今回,健常者を対象に振動周波数12.5HzのWBVの負荷時間の違いが不安定板上での坐位姿勢制御に及ぼす影響について,運動力学的視点から検討した。【方法】対象は研究の参加を了承した健常青年17 名(男性5 名,女性10 名,平均年齢23.4 歳)であった。方法は被験者に全身振動機器(BIO Relax:大島製作所)の振動テーブル上に足間を20cm離し,かつ両膝を軽度屈曲位して5 分間保持させた立位(非振動条件)と同姿勢で振動刺激(周波数12.5Hz,振幅10mm)を5 分間(振動A条件)と10 分間(振動B条件2)負荷した3 条件を順不同で各1 回行わせた。各条件終了後,被験者を直ちに床から 50cm離れた台上に設置した重心動揺計(グラビコーダーGS-10:アニマ社製)の上に置いた不安定板(SAKAI製DYJOCボード)上に坐らせ,両上肢を胸の高さで交叉させた端坐位を30 秒間とらせた。なお,各条件間に10 分以上の休憩を取らせた。不安定板上で端坐位を保持させている間,頭頂部に固定した3 軸加速度計(MVP-RF8-AC:Micro Stone社製)により,X方向(前額面)とY方向(矢状面)の加速度を測定し,各々の実効値(RMS:Root mean square)と両者の合成加速度を算出した。また,重心動揺計からは30 秒間の圧中心軌跡の総軌跡長と実効値面積を記録した。さらに,端坐位保持終了後には産業科学技術研究開発プロジェクト作製による官能性尺度の一過性ストレス主観で心理状態を評価した。統計処理は3 条件間の各測定値の変化を一元配置分散分析で検討し,効果がみられた場合多重比較検定(Tukey法)を併用した。各測定項目間の関係についてはピアソンの積率相関係数を算出し,一過性ストレス主観については非振動条件と振動条件A,B間でMann-Whitney検定を実施した。【説明と同意】全対象者は本学研究倫理委員会の指針に従って筆者から説明を受け,実験の参加を了承した上で同意書を提出した。【結果と考察】X方向の加速度では,非振動条件3.87±1.41mG,振動A条件10.13±5.21mG,振動B条件12.53±4.98mGであり,一元配置分散分析で効果を認め,振動A・B条件とも非振動刺激よりも有意な高値を示した。Y方向の加速度では,非振動条件8.05 ± 3.22mG,振動A条件7.45 ± 3.05mG,振動B条件11.44 ± 3.62mGと一元配置分散分析で効果を認め,振動B条件が非振動刺激と振動A条件よりも有意な高値を示した。しかし,合成加速度は3 条件間で有意な差を認めなかった。一方,総軌跡長では,非振動条件28.5 ± 4.1mm,振動A条件34.2 ± 5.2mm,振動B条件45.6 ± 6.3mmと一元配置分散分析で効果を認め,振動A・B条件とも非振動刺激よりも有意な高値を示した。実効値面積では,非振動条件0.88 ± 0.34cm2,振動A条件1.53 ± 0.66cm2,振動B条件2.21 ± 0.74cm2 と一元配置分散分析で効果を認め,振動A・B条件とも非振動刺激よりも有意な高値を示した。さらに,振動A・B条件における各測定項目間の相関係数はY方向の加速度と合成加速度,総軌跡長,実効値面積で正の相関を認めた(r≧0.53)。一過性ストレス主観では振動B条件が非振動条件より「注意の集中がしにくい」「ストレスを感じた」などの項目で有意な高値を示した(p<0.05)。本研究の結果,振動負荷時間が長い振動B条件では不安定板での端坐位を保持する際に頭頸部及び体幹の運動や骨盤の傾斜による動揺が振動A条件よりも増大した。振動B条件では,体幹側屈による前額面での運動よりも頭頸部や骨盤の前・後傾といった矢状面での動きが多いことが推測された。WBVによる振動負荷時間が長くなると負荷中の前庭器の撹乱や下肢全体におよぶ筋緊張亢進状態での適応と負荷後の撹乱された前庭覚,固有感覚の解放という相乗効果によって坐位姿勢制御に影響が生じたものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】健常者に対する振動周波数12.5HzのWBVは負荷時間の長さの違いによって,前庭器や下肢や体幹筋の固有感覚に生じる撹乱効果と負荷後の解放効果により,端坐位の姿勢制御に影響を及ぼすことが示唆された。

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© 2013 日本理学療法士協会
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