理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-31
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ポスター発表
律動的運動における音楽リズムの影響
亀井 裕貴星 葵岸 圭祐林 英里奈江口 勝彦
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抄録

【はじめに、目的】歩行,サイクリング,ローイングなどのような律動的な運動時,呼吸リズムが運動リズムに引き込まれる現象があり,両者が同期した場合を運動‐呼吸同調( locomotor respiratory coupling) 又はEntrainmentという.この発生メカニズムはまだ明らかではないものの,四肢運動と呼吸運動を同調させることで,両運動の機械的効率を高めるであろうという予測から数多くの研究がなされ,LRC発生の生理学的意義についての考察がされている.一方,近年では,ウォーキングやランニング等を行う際においても音楽を聴きながら行う人が増えている.先行研究では,音楽を聴きながら運動することで不安状態が軽減する,交感神経活動が抑制される,主観的運動強度が減少する等の報告がある.しかしながら,そのメカニズムも不明である.我々は「律動的な運動時に聴く音楽は,行進に使用されるマーチやダンスの音楽のように音楽リズムの影響が強く,音楽リズムが運動リズムに影響を与えている」という仮説を立てた.本研究の目的は,音楽リズムが運動リズムに与える影響について明らかにすることである.【方法】対象は若年健常成人10 名( 男性5 名,女性5 名,平均年齢20.0 ± 1.5 歳) であった.盲検法とするために,実験前は真の目的を隠し,「音楽が自転車エルゴメータ運動におけるエネルギー効率に及ぼす影響についての実験を行います」と説明した.実験終了後,真の目的を説明し同意を得た.音楽は,機械的に発生させたテンポを使用していることからリズム変動が無い,テクノポップ系の音楽からYMOの「RYDEEN」を採用した.音楽編集ソフトを使用し,テンポが異なる2 条件(条件A:原曲のテンポ143bpm,条件B:少し速いテンポ150bpm)を設定した.各条件での測定は日をかえて行った.音楽リズムは曲に同期させた電子メトロノーム信号を使用した.運動リズムは,ペダル1/2 回転毎に反応するスイッチを取り付けた自転車エルゴメータ(75XL II,コンビ)を使用し,サイクリング運動行わせた.呼吸リズムは呼気ガス分析装置を用いて呼吸フローにより測定した.実際の呼吸と呼気ガス分析装置データとの間には16msの遅延が発生することから,得られた値を補正して使用した.すべての信号はA/D変換器(PowerLab)を経由しパーソナルコンピュータに取り込み解析した.運動実施時間は,定常状態におけるデータ採集を目的に,音楽2 サイクル分の8 分間に設定した.データ分析には,8 分間の運動時間のうち最後の1 分間の値を用いた.リズムの同調発生率は,「同調発生率(%)=(ペダル回転と同調した音楽リズム数/解析区間の全音楽リズム数)× 100」の式により算出し,各条件の同調発生率の平均値を求めた.【倫理的配慮、説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,本研究の目的,方法,参加による利益と不利益などの説明を十分に行い,同意を得た.対象者は全員自らの意思で参加した.また,本研究は本学研究倫理委員会の規定に基づき,卒業研究倫理審査により承認され実施した.【結果】音楽‐運動リズム同調発生率は,条件Aが64.22 ± 2.02%,条件Bが58.52 ± 3.25%と共に高率であった.一方,呼吸‐運動‐音楽リズム同調発生は見られなかった.【考察】「律動的な運動時に聴く音楽は,音楽リズムが運動リズムに影響を与えている」という仮説を検証するために,テンポの異なる2 条件で実験を行った.テンポが異なっていても音楽‐運動同調発生率は共に高率であった.これは音楽リズムに運動リズムが引き込まれた結果であり,仮説は支持されたと考える.一方,呼吸リズムとの同調が起こらなかったのは,本研究で用いた運動の負荷強度が低く,律動的な呼吸の需要が低かったことが影響したと推察した.今後は適切な運動強度設定で検証していくことにより,音楽-運動-呼吸リズムの関係についてさらに追求したい.【理学療法学研究としての意義】音楽を聴きながら行う律動的な運動における音楽-運動-呼吸リズムの関係について明らかにすることで,運動効率の向上やパフォーマンスの向上に結びつく可能性がある.

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© 2013 日本理学療法士協会
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