理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-32
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ポスター発表
陽圧換気負荷と重力負荷における循環動態の比較
藤田 恭久堀 晋之助與儀 哲弘森木 貴司木下 利喜生幸田 剣中村 健田島 文博
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抄録

【はじめに、目的】ヒトは抗重力位をとると、重力の影響により血流が腹腔、下肢に移動し、静脈還流量が減少することで、本来であれば血圧低下が生じるが、圧受容器反射による自律神経の作用により血圧を維持する。臥床状態が続くとこの圧受容器反射が減弱し起立性低血圧を起こす。このため、リハビリテーションでは可能な限り、早期から重力負荷を加えていく必要があり、一般的に、抗重力負荷として端座位や立位、Head up tilt(HUT)が行われる。これまでの研究で、人工呼吸器の呼気終末陽圧換気負荷により胸腔内圧が陽圧になることで静脈還流量が低下することが分かっている。しかし、重力負荷と陽圧換気下での循環応答を比較した報告はない。今回、非侵襲的陽圧換気法(NIPPV)を用いた陽圧負荷と、HUT、端座位、立位時の循環応答を測定し、陽圧負荷がどの程度の負荷に相当するかを検証したので報告する。【方法】対象は若年健常男性7 名とし、HUT(30°群、60°群)、姿勢変換(座位群、立位群)、陽圧負荷時の5 群を測定した。NIPPVの陽圧負荷は、非侵襲性人工呼吸器(BiPAP Focusフェイスマスク:フィリップス・レスピロニクス社製)を使用した。プロトコールは各群において、背臥位で十分な安静(陽圧負荷群は安静からマスクを装着)をとった後、安静値として5 分間の測定を実施した。陽圧負荷群は安静後、先行研究で心拍出量(CO)が有意に低下した陽圧12cmH2Oを負荷し、7 分間の測定を行った。HUT群は安静後、HUT30°ついで60°を各7 分、姿勢群も同様に端座位および立位を各7 分間続けて測定した。また各群の測定間には十分な休息をおいた。測定項目は心拍数(HR)、一回心拍出量(SV)、CO(MCO-101 メディセンス社製)、血圧(エレマーノTERMO製)とし、HR、SV、COはbeat by beat、血圧は1 分毎に測定し、平均血圧(MBP:拡張期血圧+脈圧/3)を算出した。各データは最後の3 分間を平均した値を使用し、算出した3 分の平均値を安静時のデータと比較し、さらに安静時からの変化率を陽圧負荷群とHUT および姿勢変換の間で比較検討を行った。統計処理は多重比較検定のTukey-Kramerを使用し、有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に基づいて被験者に実験の目的、方法及び、実施上の留意点、危険性を十分に説明し同意を得てから実施した。【結果】HRはHUT60°、端座位、立位時において安静時に比べ有意な上昇が認められ、HUT30°と陽圧負荷において変化は生じなかった。SV、COはすべての群において安静時より有意な低下を示した。MBPは、端座位のみ安静時より有意な低下を示した。HRの変化率における陽圧負荷との比較では、HUT60°、端座位、立位時において有意に高値を示した。SVの変化率における陽圧負荷との比較では、すべての群において有意な低値を認めた。しかしCOの変化率における陽圧負荷との比較ではHUT60°、端座位、立位時において有意な低値を認めたが、HUT30°では有意差を示さなかった。またMBPは陽圧負荷と各群間において有意差を認めなかった。【考察】本研究の目的は、NIPPVの陽圧換気がHUTや姿勢変換の重力負荷による循環応答に対し、どの程度に相当するか検討することである。陽圧負荷群とHUT群、姿勢群におけるCOの比較では、HUT30°のみの重力負荷において有意な差を認めなかったため、12cmH2Oの陽圧換気はHUT30°の重力負荷に相当したと考えられた。陽圧負荷群のSV、CO低下は、陽圧負荷により胸腔内圧が陽圧となることで、本来陰圧呼吸による圧格差での静脈血を引き上げる呼吸ポンプ作用が減弱したことに起因すると考えられた。また胸腔内圧が陽圧になることで大静脈が圧迫され右房圧が上昇し、静脈還流量が減少することや、気道内圧も陽圧になるため、肺血管抵抗が上昇し、右心室の後負荷の増大から低下する要因も考えられる。今回の結果より、NIPPVを使用した12cmH2Oの陽圧負荷では、循環動態に対して座位や立位と同等の負荷をかける事は難しく、起立性低血圧を完全に予防するためには更に高い陽圧負荷が必要である可能性がある。しかし、これ以上の陽圧は一般臨床上もまれであり、安全面より難しいかもしれない。ただ、NIPPVを使用した陽圧負荷とある程度の重力負荷を併用する事により、効果的な起立性低血圧の予防を行える可能性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】離床可能な患者においては、早期から端座位や立位で重力負荷をかけ安静臥床を避けることが重要である。しかし、化膿性脊椎炎や脊椎の不安定性などにより、安静臥床を強いられる症例においては、NIPPV を使用した陽圧負荷とより少ない重力負荷で、起立性低血圧を予防できる可能性がある。

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© 2013 日本理学療法士協会
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