抄録
【はじめに】脳卒中治療ガイドライン2009において発症後早期からのリハビリテーション(以下、リハ)を積極的に行うことが強く勧められており、下肢装具を使用しての早期起立・歩行練習が推奨されている。こうした背景から近年、脳卒中片麻痺患者に対する発症後早期からの装具療法についての報告が数多くみられる。短下肢装具(以下、AFO)の位置づけは徐々に明確になりつつあるものの、長下肢装具(以下、KAFO)処方の是非については未だ一致した見解は得られていない。そこで今回われわれは、これまでに片麻痺患者に対して作製した下肢装具の種類と作製時期、退院時歩行能力について調査した。そしてKAFOに着目し検討を行ったので、その結果に若干の考察を加え報告する。【対象と方法】2006年11月から2011年11月までの5年間に当院回復期リハ病棟に入院しリハを実施した初回発症の脳卒中片麻痺患者のうち、下肢装具を作製した43例を対象とした。内訳は男性21例、女性22例、脳梗塞33例、脳出血10例、左麻痺22例、右麻痺21例、平均年齢は70.2±13.5歳。方法はKAFO処方群(以下、K群)8例、両側金属支柱付AFO処方群(以下、A群)26例、プラスチック製AFO処方群(以下、P群)9例の3群に分けた。リハ診療録より(1)発症から採型までの日数(2)発症から退院までの日数(3)採型から退院までの日数(4)退院時歩行能力(5)転帰先の各項目について後方視的に調査し、3群間で比較・検討した。数値は平均日数±標準偏差で示し、統計学的分析は(1)~(3)については一元配置分散分析にて行い、多重比較はLSD法を用いた。(4)、(5)についてはχ²検定を用いた。いずれの場合も危険率5%未満を有意な差と判断した。また、K群についてはAFOへのカットダウンが可能であった群(以下、K-a群)6例(カットダウンまでの日数は40.6±20.1日)と不可能だった群(以下、K-b群)2例の2群に分け、上記(4)、(5)を比較した。【倫理的配慮】当院倫理委員会において承認を得た上で、個人情報保護に配慮して調査を行った。【結果】(1)発症から採型までの日数はK群25.0±10.4日、A群31.5±16.1日、P群49.2±15.9日で、K群ならびにA群がP群より有意に短かった。(2)発症から退院までの日数はK群149.8±55.1日、A群139.8±41.2日、P群173.1±26.7日で差は認められなかった。(3)採型から退院までの日数はK群124.8±47.5日、A群108.2±37.4日、P群123.9±28.7日で差は認められなかった。(4)退院時歩行能力はK群では自立2例、要見守り3例、要介助3例、A群では自立14例、要見守り8例、要介助4例、P群では自立6例、要見守り1例、要介助2例で3群間に差は認められなかった。(5)転帰先はK群では自宅5例、老人保健施設(以下、施設)3例、A群では自宅20例、施設4例、他院への転院2例、P群では自宅8例、施設1例で3群間に差は認めなかった。K群に関しては退院時歩行能力(4)は、K-a群では自立2例、要見守り3例、要介助1例、K-b群では要介助2例であった。転帰先(5)は、K-a群では自宅5例、施設1例、K-b群は2例とも施設であった。【考察】発症から採型までの日数はK群ならびにA群がP群より短く、またK群とA群の間に差はみられず、2群の装具処方時期は概ね同じであった。このことからKAFOと金属支柱付AFOは早期からの治療用装具として位置づけられているものと考えられる。しかし、KAFOの早期処方に関しては実際のKAFOとしての使用期間や、患者の経済的負担の面から処方に慎重な意見もある。今回の調査結果よりK群の総入院日数、採型から退院までの日数は他の2群と差はなく、さらに退院時歩行能力、転帰先においても他の2群と差はみられなかった。また、K-a群のカットダウンまでの日数は先行研究のそれと比較しても十分な使用期間であった。これらのことから早期にKAFOを処方する妥当性が示唆された。K群で、転帰先が自宅であったのは、退院時歩行能力がK-a群内の自立あるいは要見守りの症例であった。在宅復帰に関しては、家族介護などのマンパワーの影響も大きいかと推察されるが、カットダウンが可能であること、退院時歩行能力が要見守り以上のレベルであることがその条件になることが示唆された。以上のことから発症後早期から積極的にKAFOを処方し、歩行獲得に向けてのリハを進めていくことが重要であると考えられる。今後はさらに症例数を重ね、調査・検討を続ける必要があろう。【理学療法学研究としての意義】本研究にて当院における脳卒中片麻痺患者に対する下肢装具の作製状況が明らかになった。KAFO処方をすすめるにあたっての今後の臨床指針になると考えられる。