抄録
【目的】人工膝関節全置換術(TKA)後,疼痛やQOLは改善するが,大腿四頭筋筋力低下は残存するとされる.TKA後症例において大腿四頭筋筋力は機能的能力と強く相関しているとの報告もあり,術後早期の筋力回復は重要な課題である.TKA後の筋力低下の要因は,関節腫脹と損傷の二次的な抑制反応に起因する中枢神経システムの弱化であり,筋萎縮より筋賦活の損失によることを示唆している.近年その中枢性筋力低下に対して神経筋電気刺激(NMES)が有効であると報告されている.しかし,筋収縮を誘発する従来の運動閾値でのNMESでは,術後の腫脹や疼痛により実施困難な症例も経験する.近年Collinsらは,筋収縮を伴わない感覚強度でのNMESにおいても上位中枢からの下行性入力を増大させ,筋出力を増大させると報告している.そこで今回,TKA後症例に対して感覚強度でのNMESを実施し,その効果を予備的に検証した.【方法】対象は当院にて片側TKAを施行した症例21名21膝とし,NMES実施群10名(男性2名,女性8名,平均年齢66.4±5.5歳)とNMES非実施群11名(男性1名,女性10名,平均年齢69.7±4.4歳)にカルテ番号の末尾の数字を用いて割り付けた.NMES実施群では,術後13日目より5日/週×2週間,NMESを運動療法開始前に大腿四頭筋へ実施した.NMESはIntelect Mobile Stimを使用し,パラメーターは二相性対称性パルス波,周波数100pps,パルス時間1msecとし,連続で45分間実施した.電流強度は筋収縮が生じないピリピリと感じる閾値とし,電極は大腿神経,大腿直筋,内・外側広筋のモーターポイントに貼付した.運動療法は術後翌日より膝関節ROM拡大,下肢筋力増強,歩行・ADL練習を実施した.主要アウトカムは大腿四頭筋等尺性最大筋力(MVIC)体重比とし,Hand held dynamometerを用いて評価した.二次アウトカムはTimed Up and Go test(TUG),2分間歩行テスト(2MWT),膝伸展最大収縮時の疼痛とし,疼痛はVisual analogue scale(VAS)を用いて評価した.また生体電気インピーダンス法による下肢骨格筋量をIto-InBody370を用いて測定し,体重比を算出した.評価は術前と術後13・20・27日目の計4回測定した.下肢筋肉量はインプラントによる電気抵抗を考慮して術後のみの6・13・20・27日目の計4回測定した.各項目の平均値をMann-Whitney U-testを用いて群間比較し,有意水準は5%とした.【説明と同意】本研究ではヘルシンキ宣言の基本原則および追加原則を鑑み,施設長,主治医,大和橿原病院倫理委員会の承認を得た上で症例に対し本研究の概要について説明し,文書による同意を得てから計測を実施した.【結果】MVIC体重比はNMES実施群と非実施群で術前0.30±0.07・0.30±0.09kgf/kg,術後13日目0.13±0.05・0.14±0.05kgf/kg,20日目0.20±0.06・0.16±0.05kgf/kg,27日目0.27±0.07・0.20±0.06 kgf/kgとなり,術前と術後13日目では両群間に有意差はなかったが,術後27日目ではNMES実施群で有意に増大した(p<0.05).TUGはNMES実施群と非実施群で術前10.5±4.9・11.2±3.1sec,術後13日目15.1±8.6・13.9±4.4sec,20日目11.0±4.7・11.8±3.7sec,27日目8.8±3.2・11.1±2.8secとなり,術前ではNMES実施群で有意に速かったが(p<0.05),術後13日目では両群間に有意差はなく,術後27日目ではNMES実施群で有意に改善した(p<0.05).2MWTはNMES実施群と非実施群で術前124±33・118±19m,術後13日目103±41・101±19m,20日目142±39・112±23m,27日目154±38・122±22mとなり,術前と術後13日目では両群間に有意差はなかったが,術後27日目では,NMES実施群で有意に改善した(p<0.05).下肢骨格筋量体重比はNMES実施群と非実施群で術後6日目99±17・99±15g/kg,13日目98±18・98±19g/kg,20日目94±13・96±18g/kg,27日目99±17・95±21g/kgとなり,両群間に有意差は示さなかった.膝伸展最大収縮時のVASはNMES実施群と非実施群で術前32±21・26±29mm,術後13日目55±19・47±25mm,20日目42±24・38±19mm,27日目37±26・36±21mmとなり,両群間に有意差は示さなかった.【考察】感覚強度のNMESにおいてもMVICが有意に増大し,TUGと2MWTが有意に改善した.下肢骨格筋量には有意差はなかったことからMVICの増大は筋肥大ではなく,動員される運動単位の増加によるものと考えられた.VASは2群間で有意差がなかったことから,本NMESは疼痛抑制効果ではなく,中枢神経システムを介して運動単位を賦活し,筋出力や機能的能力を改善した可能性がある.今後はより大きなサンプルサイズでのランダム化比較対照試験を実施する必要がある.【理学療法学研究としての意義】TKA後症例において,感覚強度のNMESにおいても有用性が示唆された.感覚強度では,疲労や疼痛が生じにくく,症例への負担も少ないことが利点であることから従来の運動閾値でのNMESでは実施困難であった症例に適応できる可能性がある.