抄録
【目的】発達過程における滑らかな運動の発現と運動イメージや記憶を基にした予測などの認知活動の獲得には関連性が認められる.運動イメージは体性感覚イメージだけでなく,視覚イメージを含む.近年,脳性片麻痺児を対象にした運動イメージ研究では,手の心的回転課題(以下MRT)が用いられ,それにより上肢の運動イメージに障害が認められることが明らかにされた(Craje,2010).また脳性片麻痺児の上肢の運動イメージ障害と運動障害に相関がみられることが報告されている(van ELK,2010).さらにその特徴として,体性感覚イメージよりも視覚イメージ優位であることが指摘されている.しかし,下肢の運動イメージと運動機能および視覚認知機能との関係について調査されていない.また片側上下肢が障害される片麻痺児とは異なり, 運動麻痺が上肢に比べて下肢に強く出現し,障害の程度が多様である脳性両麻痺児での調査はされていない.そこで今回,脳性両麻痺児の運動イメージを手と足のMRTを用いて測定し,運動機能および視覚認知機能との関連について調査した.【方法】対象は健常児群20名(11.4歳±0.5),脳性両麻痺児群(以下,CP群)21名(10.3歳±1.5)である.使用アウトカムはMRT反応時間(以下RT)と正答率,運動機能評価(上肢分離運動,下肢分離運動),視覚認知機能評価(フロスティッグ視知覚検査)とした.対象に対して手と足の画像6枚を提示し,それぞれ左右の弁別を求めた.統計処理は群間比較に対応のないt検定,群内の各項目の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて算出した.有意水準はp<0.05とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当学研究倫理審査委員会(H24.7-H25.7)の承認を受けて,対象者の保護者に説明し同意を得ている.【結果】健常児群に比べCP群で運動機能,MRT(RT,正答率)に有意な低下が認められた(p<0.01).CP群内において上肢,下肢ともにMRT(RT)とMRT(正答率), MRT(RT)と運動機能に有意な正の相関を認めた(ρ=0.77,p<0.05).MRT(正答率)と運動機能には相関を認めなかった.上肢と下肢のMRTの比較においては,健常児群では差がなかったが,CP群では上肢に比べて下肢のMRT正答率の有意な低下が認められた(p<0.01).MRT(RT)と視覚認知機能(ρ=0.81,p<0.01),MRT(正答率)と視覚認知機能には強い相関がみられ(ρ=0.76,p<0.01),特に「全体から一部を選択的に弁別する項目」「手本を参照しながら模倣し構図する項目」に相関が認められた.一方,運動機能と視覚認知機能に相関はみられなかった.【考察】健常児群と比較してCP群では上下肢ともにMRTのRTの遅延,正答率の低下を認めた.これは運動イメージの困難さを示す結果となった.またCP群は上肢に比べ下肢のMRTに正答率の低下を認めた.これは生体力学的制約および意図して身体を使用する経験が運動イメージの発達に影響することを示唆する結果となった.さらにMRTのRT,正答率と視覚認知機能には強い相関がみられ,「全体から一部を選択的に弁別する」「手本を参照しながら模倣し構図する」項目に関係がみられたことは,脳性麻痺児の運動イメージ障害には,一次的な視覚認知機能の影響に加えて,自己身体部位の認識過程および他者運動と自己運動の照合過程の発達障害が関与している可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】脳性両麻痺児の運動イメージの困難さとそれに関連する因子について明らかにした.この結果は理学療法介入において運動発達を促す際に認知発達に対して考慮することを示唆した.