抄録
【はじめに、目的】 Gross Motor Function Classification System(以下GMFCS)レベルは脳性麻痺児の運動機能に関する予測因子であり、10歳前後でのGFMCSレベルは成人期になっても変化しないか低下すると言われている。特にGMFCSレベルIIIでは7歳11カ月で粗大運動能力がピークになり、成人に近づくにつれ機能低下が生じることがHannaらの報告により明らかになっている。 脳性麻痺や脳卒中など痙性麻痺を示す疾患では、異常筋緊張による運動障害を引き起こすとされている。選択的筋解離術(以下OSSCS)は抗重力筋である単関節筋を温存し痙性の主体となる多関節筋を解離することで運動機能の向上を図る方法である。 今回、主な立位移動方法がPosture Control Walker(以下PCW)歩行であったGMFCSレベルIIIの痙直型四肢麻痺児が股関節OSSCS後、3ヵ月でレベルIIへ改善しロフストランドクラッチ(以下クラッチ)歩行が可能となったため報告する。【方法】 本症例は、GMFCSレベルIIIの痙直型四肢麻痺の9歳男児であり、身長120cm、体重46kg、BMI32と肥満体形であった。術前・術後2ヶ月・6ヶ月時に他動関節可動域・筋力・立位保持時間を測定した。筋力測定にはハンドヘルドダイナモメーター(Hoggan社製MICROFET2)を用いた。PCW・平行棒歩行を行うと遊脚期に股関節の内転が出現し、両膝関節内側を擦りながら下肢を振り出していた。 クラッチでの歩行は不可能であり、屋外移動は車椅子・PCWを使用し、屋内では四つ這い移動と膝歩きが中心であった。上肢は右前腕回外に自動・他動運動とも制限があった。精神発達遅滞はなくコミュニケーション能力も良好だった。 当院での股関節OSSCS後、入院期間の2ヶ月間は週3~4回・各40~60分の理学療法を行った。退院後は月1~2回・各60分の理学療法を行なった。理学療法は単関節筋の筋力増強と立位・歩行バランス能力の改善を目的に、膝立ち・立位ハンドリングを中心に適宜内容を変更しながら行った。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に則り症例報告の説明を行い、ご本人・ご家族の了承は得た。【結果】 術前、術後2ヶ月・6ヶ月時の股関節伸展可動域(単位:°)は-15/-15(右/左、術前)→0/5(2ヶ月)→10/10(6ヶ月)、外転は10/15→10/15→15/20、膝伸展は-5/-15→5/0→5/5と変化し、筋力(単位:N)は股関節伸展が85/92→44/61→96/84、外転は65/67→102/111→104/122、膝関節伸展は110/115→154/155→146/143と変化し、遊脚期の股関節内転は消失した。立位保持時間は術前が18秒であり、2ヶ月時に1分以上可能となり、6ヶ月時点ではさらに延長し日常生活での立位時間も増加した。 術後3週目からクラッチでの立位・歩行練習を開始し、2ヶ月目で院内自立となった。【考察】 本症例は、術前に股関節の分離した外転・伸展運動は可能だったが、中殿筋・大殿筋の筋力は弱かった。さらに大内転筋・薄筋・腸腰筋群・ハムストリングスの筋緊張亢進・短縮などにより股関節周囲の拮抗筋間のバランスが崩れ股関節運動の安定性の低下をもたらしていた。また大腿四頭筋の筋力低下や肥満体形も影響し、立位保持時間が短く歩行能力の制限となっていた。股関節の内転拘縮はなかったが、大内転筋や薄筋などの多関節筋の筋緊張が運動時に亢進しやすく、遊脚期の股関節内転を引き起こしていたと考えられた。 術後3週目にて股関節伸展・外転の分離性の向上が見られたが、立位は安定せずクラッチ歩行は不可能であった。その後、股関節運動の安定性向上のため、ブリッジング・膝立ち練習・立位ハンドリングを行うことで大殿筋・中殿筋の筋力向上を図った。その結果、術後2ヶ月時点で股関節外転の筋力に改善が得られ、立位・歩行の安定性に改善が見られた。股関節伸展の筋力は2ヶ月時点で低下していたが、6ヶ月時点では術前と同等まで改善した。 GMFCSレベルIIIの膝伸展筋力の平均値は2.5N/kg(115N/46kg)と言われており、アライメントの変化により膝伸展筋力が発揮しやすくなったことや歩行機会の増加により、膝伸展筋力が3.2N/kg(150N/46kg)へと増加したこともクラッチ歩行獲得に影響したと考えた。 クラッチ使用開始当初は立位バランス能力の不足・膝伸展筋力の不足・クラッチ操作の不慣れが影響しクラッチを前方に移動させる際に転倒することがあったが、術後2ヶ月では上記した内容に改善がみられ、クラッチ操作にも慣れてきたことにより院内自立レベルとなった。【理学療法学研究としての意義】 10歳前後でのGMFCSレベルは成人期になっても変化しないか低下すると言われているが、本症例のようにOSSCSと術後の理学療法介入により粗大運動能力が改善するケースもいる。よって術前の状態から、術後の粗大運動能力の変化を予測し理学療法介入方法を考える必要がある。