抄録
【目的】 脳卒中患者における早期離床の効果は先行研究により示されており、脳卒中治療ガイドライン2009においても、発症後早期から座位、立位を含む積極的なリハビリテーションを行うことが強く勧められている。座位練習の開始基準は、林田ら(1990)によって考案された1)障害の進行が止まっていること、2)意識レベルがJapan Coma Scale(JCS)にて1桁であること、3)全身状態が安定していること、が一般的ではあるが、中島(2012)は座位開始時の意識レベルに関して、JCS2桁であっても動作協力がどうにか得られていればJCS1桁に準じる状態と考え座位をすすめても問題ないと述べており、実際の臨床においても独自で離床基準を設けている施設は多くみられる。しかし、座位開始時の意識レベルに関する報告は少なく、どちらも十分な証拠はない。そこで、座位開始時意識レベルの違いによる臨床データの比較を試みたが、JCSでは運動項目の評価が不十分であるため、開眼項目(E)、言語反応項目(V)、運動反応項目(M)の3分野から評価可能であるGlasgow Coma Scale(GCS)を用いた。文献より、JCS:1~3はGCS :E4(自発的に開眼)、また、JCS:10、20はGCS:E3(呼びかけにより開眼)に該当するとされており、林田らの基準はGCS:E4、M6(命令に応じて可能)に、中島はGCS:E3、M6に相当する。今回、両者で臨床データを比較し、座位開始時の基準となる意識レベルを検討することを目的とした。【方法】 対象は、2011年1月から2012年8月までに当院に入院し保存的加療を行った、初回発症の脳梗塞または脳出血患者とした(再発、くも膜下出血は除外)。さらにそこから、座位開始時の意識レベルが、GCS:E4かつM6(1桁群、n=20)もしくはE3かつM6(2桁群、n=18)であった38名とし、それ以外の意識レベルで座位練習を開始したもの、入院時にすでに意識清明またはJCS1桁であったものは除外した。情報収集は診療録等から後方視的に行い、収集項目は基本情報(年齢、性別、病型、入院時GCS)、座位開始期間(発症から座位練習を開始した日までの期間)、急性期病棟入院期間、modified Rankin Scale(mRS)を発症2週後、4週後、転帰(回復期、自宅、その他)、急性増悪の有無(死亡またはBarthel Indexで10以上の低下)とした。理学療法介入は、Andersonの基準(土肥変法)に準じてリスク管理を行い、また個々の患者の状態を反映する為医師の指示を最優先した。分析は、1桁群と2桁群の2群間での比較を行った。正規性を示さなかったパラメトリックデータと入院時GCS、mRSに対してはMann-WhitneyのU検定を行い、性別、病型、転帰、急性増悪の有無に対してはχ²検定を行った。統計学的処理はR2.8.1を使用し、有意水準はいずれも5%とした。【倫理的配慮】 後方視的研究となるため、個人情報の取り扱いに十分に留意した。また、ヘルシンキ宣言に則った当院の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】 基本情報において、入院時GCS運動反応(1桁群:M5.5/2桁群:M6)においてのみ有意差を認め(p<0.05)、年齢(中央値76.5歳/中央値81.0歳)、性別(男性10名、女性10名/男性8名、女性10名)、病型(脳梗塞9名、脳出血11名/脳梗塞6名、脳出血12名)、入院時GCS:開眼、言語反応(E3、V2/E3、V4)について有意差を認めなかった。座位開始期間(中央値6.5日/中央値4.5日)、急性期病棟入院期間(中央値47.5日/中央値43.5日)、発症2週後mRS(4.5/4.5)、発症4週後mRS(4/4)、転帰(回復期8名、自宅2名、その他10名/回復期10名、自宅2名、その他6名)、急性増悪の有無(1件/1件)では有意差を認めなかった。【考察】 結果から、2群間で座位開始後の経過には有意差がなかったことが確認された。出江ら(2001)は、早期座位の入院期間に対する効果について、早期群と遅延群に有意差はみられなかったものの入院期間の短縮がみられ、退院時のADL到達レベルを犠牲にせずに入院期間を短縮すると報告している。本研究においても有意差はなかったが、2桁群にて座位開始期間、急性期病棟入院期間で短縮がみられ、mRS、転帰に差を認めなかったことから、より早期に同じ到達レベルを獲得できたと考える。また、急性増悪に差はなく、安全面においても両群の差はなかったと考える。よって、JCS2桁であっても動作協力が得られる状態であれば、座位を開始しても問題なくさらに急性期病棟入院期間短縮につながる可能性が示唆された。しかし今回、入院時の運動反応項目に有意差があり、そのことが急性期病棟入院期間等、経過に影響を与えた可能性もあるため、今後症例数を重ねながら、対象を統一した上での検討を続けていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 脳卒中患者に対して、座位開始基準を検討したことは、在院日数の短縮やQOLの向上に寄与すると考えられる。