抄録
【はじめに、目的】関節包は不動によって惹起される拘縮の責任病巣の一つとして重要であり,不動期間の延長に伴い拘縮への関与率は大きくなるとされている.また,その病態メカニズムには関節包を構成するコラーゲン線維の増生やその密生化に起因した線維化の発生が関与するとされている.このような関節包の線維化については組織学的・分子生物学的手法を用いて検討されているが,拘縮発生時の関節包の線維化の発生状況を詳細に調査したデータは少なく,特に拘縮の進行に伴う経時的変化は明らかになっていない.そこで,本研究では,不動化したラット膝関節関節包の組織学的検索を通して,関節包の線維化の発生状況を縦断的に検索した.【方法】実験動物には,12 週齢のWistar系雄性ラット55 匹を用い,無作為に両側股・膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位にてギプス包帯で1・2・4・8・12 週間不動化する不動群(各5 匹,計25 匹)と週齢を合致させるために13・14・16・20・24週齢まで通常飼育する対照群(各6 匹,計30 匹)に振り分けた.実験開始時および終了時には,各群すべてのラットを麻酔し,膝関節伸展可動域(ROM)を測定した.また,実験終了時の不動群においては,両側後肢後面の皮膚を縦切開,膝関節屈筋群を切離した後のROMを測定し,実験開始時のROMを差し引くことで関節構成体由来の制限角度を求めた.そして,これを実験終了時の制限角度で除し百分率で表したものをROM制限に対する関節構成体の関与率とした.その後,右側膝関節を摘出し通法のパラフィン包埋処理を行い,各試料から7 μm厚の連続切片を作製した後に6 枚の切片を抜粋し,Picrosirius Red染色を施した.次に,光学顕微鏡下で各切片における後部関節包を同定し,同部位を40 倍ならびに400 倍の拡大像でコンピューターに取り込んだ.そして,画像処理ソフトを用いて前者の画像において縦・横50 μm間隔に格子線を描き,コラーゲン線維上に存在する格子線の交点の総数を算出し,コラーゲン線維の量的変化を半定量化した.また,後者の画像を用いて,単位面積あたりのコラーゲン線維の占有率を算出し,コラーゲン線維の密生化の状況を半定量化した.統計処理として,群間比較には対応のないt検定を,群毎の不動期間の比較は一元配置分散分析ならびにその事後検定にScheffe法を適用し,危険率5%未満をもって有意差を判定した.【倫理的配慮、説明と同意】本実験は,所属大学の動物実験指針に準じ,先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】各実験期間終了時の不動群のROMは対照群のそれに比べ有意に低値を示し,不動4 週までは不動期間に準拠して有意に低下したが,不動4 週以降では有意な変化は認められなかった.また,ROM制限に対する関節構成体の関与率は不動2 週以降では50%を超え,不動1 週のそれと比べ有意に高値を示したが,不動2 週以降では有意な変化は認められなかった.次に,コラーゲン線維上の交点の総数については,全ての不動期間において不動群は対照群より有意に高値を示し,また,不動群内では不動4・8・12 週は不動1・2 週より有意に高値であったが,不動4・8・12 週の間に有意差は認められなかった.そして,単位面積あたりのコラーゲン線維の占有率は不動2 週以降では不動群は対照群と比べ有意に高値を示し,不動4 週までは不動期間に準拠して有意に増加したが,不動4 週以降では有意な変化は認められなかった.【考察】今回の結果から,不動による拘縮の発生・進行は明らかであり,不動2 週以降では関節包が拘縮の責任病巣の中心であると推測できる.そして,画像解析の結果から不動1 週よりコラーゲン線維の増生がうかがわれ,不動2 週以降はコラーゲン線維の密生化も生じる可能性が高く,これらの変化は不動4 週で顕著になっていた.つまり,以上のような線維化の病態メカニズムが影響し,関節包が拘縮の責任病巣の中心になると推察される.そして、このような線維化の変化は,不動4 週以降はほとんど変化が見られず,今回の不動モデルに限っては関節包の線維化は不動4 週までに発生・進行するといえる.ただ,このような線維化が生じる分子メカニズムは不明であり,今後の検討課題である.【理学療法学研究としての意義】本研究は組織学的手法を用いて,不動によって惹起される関節包の線維化の発生状況を半定量化することを試みた基礎研究であり,その結果,関節包におけるコラーゲン線維の増生ならびにその密生化といった線維化の病態メカニズムの経時的な変化を明らかにすることができた.つまり,この成果は関節包由来の拘縮のメカニズム解明の一助になると考える.