理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-20
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一般口述発表
膝関節屈曲拘縮モデルラットの皮膚の線維化の発生状況ならびに筋線維芽細胞の変化
後藤 響坂本 淳哉佐々部 陵本田 祐一郎近藤 康隆片岡 英樹中野 治郎沖田 実
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キーワード: 不動, 皮膚, 筋線維芽細胞
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抄録

【目的】われわれは不動によって惹起される拘縮の病態には,骨格筋,関節包における線維化の発生が関与していることを明らかにしてきた.ただ,拘縮には上記以外に皮膚の変化が関与している可能性も見出していたものの,その詳細については明らかにできておらず,課題となっていた.一方,皮膚性拘縮が発生する強皮症では真皮から皮下組織において線維化が発生しており,そのメカニズムとしてコラーゲン合成に関与する筋線維芽細胞の増加が指摘されている.つまり,不動によって惹起される拘縮においても皮膚の線維化がその一因になっており,これには筋線維芽細胞の増加が関与していると考えられる.そこで本研究では,膝関節屈曲拘縮モデルラットを用い,拘縮の発生・進行過程における皮膚の線維化の発生状況と筋線維芽細胞の動態変化を組織学的・免疫組織化学的手法により検討した.【方法】実験動物には12 週齢のWistar系雄性ラット36 匹を用い,両側後肢を股・膝関節最大屈曲位,足関節最大底屈位にて1・2・4 週間ギプス包帯で不動化する不動群(各6 匹,計18 匹)と無処置の対照群に振り分け,対照群は不動群と週齢を合わせるため13・14・16 週齢まで通常飼育した(各6 匹,計18 匹).不動開始前には,各群すべてのラットを麻酔し,0.3Nの張力で膝関節を伸展させた際の可動域(ROM)を測定した.また,各不動期間終了時は同様の方法でROMを測定し,その後,不動群においては膝関節後面の皮膚を縦切開して再度ROMを測定した.そして,皮膚切開前後のROMの差を求め,これを各不動期間終了時の伸展制限角度で除し,百分率で表したものをROM制限に対する皮膚の関与率とした. ROM測定後は両側膝関節後面の皮膚を採取し,組織固定を行った.左側試料は凍結包埋し,横断切片を作製した後,Hematoxilin & Eosin染色を施し,検鏡した後に各染色像をコンピューターに取り込んだ.そして,画像解析ソフトを用いて視野内に確認できる脂肪細胞と線維性結合組織それぞれの面積を計測し,これらを真皮から皮下組織の総面積で除して百分率で表したものを脂肪細胞,線維性結合組織それぞれの占める割合とした.一方,右側試料はパラフィン包埋を行った後,横断切片を作製し,筋線維芽細胞のマーカーであるα-smooth muscle actin(α-SMA)に対する免疫組織化学的染色を施した.そして,真皮から皮下組織におけるα-SMA陽性細胞の出現率を計測した.統計処理には,各不動期間における対照群と不動群の比較には対応のないt検定を,各群における不動期間の比較には一元配置分散分析ならびにその事後検定としてScheffe法を用いた.なお,すべての検定における有意水準は5%未満とした.【説明と同意】本実験は,長崎大学動物実験指針に基づき長崎大学先導生命科学研究支援センター・動物実験施設で実施した.【結果】不動群のROMは各不動期間とも対照群に比べ有意に低値で,不動期間の延長に伴い有意な低下が認められた.また,ROM制限に対する皮膚の関与率は各不動期間とも10%前後であり,有意差は認められなかった.両群の染色像を観察すると,対照群では線維性結合組織からなる真皮と脂肪細胞からなる皮下組織が観察されるのに対し,不動群では皮下組織の脂肪細胞が減少し線維性結合組織が増加しており,これは不動2・4 週で顕著であった.次に,画像解析の結果として,真皮から皮下組織における脂肪細胞が占める割合は各不動期間とも不動群は対照群に比べ有意に低値を示し,不動期間で比較すると不動1 週に比べ2・4 週は有意に低値で,不動2 週と4 週の間には有意差を認めなかった.一方,線維性結合組織の占める割合は各不動期間とも不動群は対照群に比べ有意に高値を示し,不動期間で比較すると不動1 週に比べ4 週は高値を示した.そして,α-SMA陽性細胞の出現率は不動2・4 週において不動群は対照群に比べて有意に増加しており,不動期間で比較すると不動4 週では不動1,2 週と比べて有意に増加していた.【考察】今回の結果から,不動期間に関係なくROM制限の10%前後は皮膚に由来していたことから,皮膚も拘縮の責任病巣の一つといえる.また,不動群において真皮から皮下組織の脂肪細胞が減少し,線維性結合組織が増加していた結果は,不動によって皮膚の線維化が発生していることを示唆しており,このことが皮膚に由来した拘縮の病態の一つと考えられる.そして,線維化のメカニズムには筋線維芽細胞の増加が関与していると推察される.【理学療法学研究としての意義】本研究は,不動による皮膚の線維化が拘縮発生の一因となる可能性を示唆しており,理学療法の主要ターゲットである拘縮の病態解明,治療方法確立の一助になる成果と考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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