抄録
【目的】 内側型変形性膝関節症(以下膝OA)は関節軟骨に対する力学的負荷の繰り返しと蓄積により、軟骨の変性・破壊、それに続く関節辺縁や軟骨下骨における骨の増殖性変化を呈する疾患であり、その発症には異常な力学的負荷が関与していることが明らかになっている。外部膝関節内反モーメント(knee adduction moment:以下KAM)は膝関節内側コンパートメントに生じる圧縮負荷を反映する指標とされている。よって、KAMを減少させるメカニズムを明らかにすることが、膝OAに対する保存的理学療法の戦略を確立する上で重要である。我々は重症度の高い膝OAでは歩行時のKAMとステップ長との間に負の相関関係があることを報告した。ステップ長は骨盤の回旋、前足と後足の各関節の角度により規定されるため、それぞれの因子とKAMとの関連性を明確にする必要がある。 本研究では床反力計と三次元動作解析装置を用いて歩行解析を施行し、重症度の高い膝OAにおける歩行時のKAM、ステップ長と骨盤の回旋角度、前足、後足の股関節、膝関節、および、足関節角度との関係について検討した。【方法】 対象は片側性または両側性膝OAと診断された男性5名、女性10名(平均年齢70.0歳)の15肢とした。両側性膝OAではより疼痛が強く、Kellgren-Lawrence分類で重症度の高い肢を計測肢とした。測定下肢の内訳はgrade3が10名、grade4が5名であった。 歩行時の床反力とKAMは床反力計(AMTI社、Watertown)と三次元動作解析装置Vicon MX(Vicon Motion System社、Oxford)を用いて計測した。歩行条件は、裸足で自由歩行速度とした。マーカーは31カ所に貼付し、解析ソフトBodyBuilder(Vicon Motion System社、Oxford)を用いて、KAM、歩行速度、およびステップ長を算出した。また、前足の接床時の重心位置を床面に投影した点から前足踵部マーカーまでの距離(以下、前ステップ長)、後足踵部マーカーまでの距離(以下、後ステップ長)を算出した。また、同時期の骨盤回旋角度と股関節、膝関節、足関節の矢状面の角度を算出した。なお、KAMは最大値を求め、体重で正規化した。全ての値は3歩行周期の平均を算出した。まず、KAMとステップ長、前ステップ長、および後ステップ長との相関関係を検討した。そして、前ステップ長と骨盤の回旋角度、前足の各関節角度との関係を、また、後ステップ長と骨盤の回旋角度、後足の各関節角度との関係を検討した 統計学的検定にはPearsonの相関係数を用い、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての被検者には研究の目的、内容を説明し、文書による同意を得た。【結果】 前ステップ長は12.4±3.5cm、後ステップ長は31.0±3.8cmであった。KAMとステップ長、および前ステップ長との間に有意な負の相関関係を認めたが(p < 0.05, r = -0.530)、(p < 0.05, r = -0.531)、後ステップ長との間には相関関係を認めなかった。前ステップ長は足関節背屈角度のみと有意な正の相関関係を示した(p < 0.05, r = 0.540)。後ステップ長と骨盤の回旋、各関節角度との間には有意な相関関係を認めなかった。【考察】 KAMと前ステップ長、および後ステップ長との関係では、前ステップ長が有意な負の相関関係を示し、前ステップ長と足関節背屈角度との間に有意な相関を示したことから、足関節背屈角度がKAM、および前ステップ長に影響を及ぼす重要な因子であることが示唆された。骨盤、および各関節角度との間に相関関係が認められなかったことは、膝OAの病態の多様性を反映していると考えられた。 膝OAではKAMと前ステップ長との間に負の相関関係を認めることから、KAMを減少させることを目的とした保存的理学療法では、接床時の足関節背屈角度を増加させるメカニズムを考慮した運動療法を行い、前ステップ長を増加させることが治療戦略の一つになる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】 膝OAではKAMと前ステップ長との間に負の相関関係があり、足関節背屈角度と有意な相関関係を認めることを明らかにしたことにより、KAMを減少させることを目的とした保存的理学療法の治療戦略の根拠を示したことである。