理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: D-P-03
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ポスター発表
回復期リハビリテーション病棟における心不全患者への包括的リハビリテーション
体重管理を中心とした患者教育の実践
小松 美和佐々木 純佐藤 聡見安西 ゆう子菅野 智美渡辺 知子
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抄録

【はじめに、目的】 近年,急性期病院の在院日数短縮に伴い,回復期,維持期の施設に従事する理学療法士が心疾患患者に対応する機会が増えている.また,高齢の心不全患者では再発を繰り返す例も多く,運動療法のみならず疾患管理能力の獲得を含めた包括的リハビリテーションが求められている.今回,うっ血性心不全による廃用症候群のため当院の回復期リハビリテーション病棟(以下回復期リハ病棟)に入院となった患者に対し,体重管理を中心とした患者教育を実施し,急性憎悪を早期に発見することができた.その後改めて指導内容を修正し,自宅退院に至った報告をする.【方法】 [症例紹介]91歳女性.既往歴:うっ血性心不全,心房細動(以下Af),両膝変形性関節症(右TKA施行),左大腿骨頸部骨折(骨接合術施行).病前ADL:T字杖歩行にて屋内ADL自立.シニアカーで近所の畑へ行き,草むしり等の軽作業を行っていた.現病歴:労作時呼吸困難が出現し約1ヶ月間様子をみていたが,安静時にも呼吸困難が出現したため近医を受診.症状が軽快し帰宅するも,同日の入浴時に再度呼吸困難が出現.2日後に他院救急外来を受診し,うっ血性心不全の診断で入院となる.CTR62%.心臓超音波検査severeAS(AVA0.905cm²,AVPG72.2mmHg).ラシックス,hANP静注にて加療. 12病日目よりリハビリテーション(以下リハ)開始となり,T字杖歩行軽介助レベルまで回復.38病日目,リハ継続目的に当院回復期リハ病棟へ転院となる.[入院時情報]体重52.6kg.CTR64%.BNP663.4pg/ml.ダイアート60mg,アーチスト5mg,ワーファリン1mg,アイトロール40mg,ノルバスクOD5mg,レニベース5mg内服.経口水分1000ml制限.安静時BP112/64mmHg,HR76bpm Af.軽介助にて連続30m歩行し,心拍応答良好,息切れなし.[患者教育]入院時より心不全の病態,徴候について紙面で提示し,説明を行った.体重は毎日記録し,その結果を主治医,病棟看護師と共有し心不全のモニタリングを実施.急性憎悪後は排泄回数の記録を追加し,ASを考慮した運動量,生活様式を提案した.退院時は,家族を含め紙面で最終指導を実施した.[運動療法]日本循環器学会が提唱する心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2007年改訂版)に基づき,筋力,持久力,ADL練習を実施した.【倫理的配慮、説明と同意】 当院倫理委員会の規則に基づき,対象者より症例報告についての同意を得ている.【結果】 介入1~20日目:体重52~53kg台.運動療法のガイドラインから逸脱することなく,T字杖歩行が連続50m可能.21~40日目:体重53~54kg台.運動療法中に明らかな他覚所見,症状の変化,耐容能の低下は認めなかったが,時折就寝中の胸部不快感の訴えあり.肺うっ血症状を疑い,主治医,病棟看護師と心不全のモニタリングを継続.患者本人へ憎悪時の症状,対処法について指導を行った. 43日目:就寝中の胸部不快感が再度出現.体重測定の経過を参考に主治医が胸部X線検査を実施した結果,右胸水が認められ一般病棟へ転棟.体重54.8kg.CTR71%. BNP876.5pg/ml.心臓超音波検査severeAS(AVA0.64cm²,MXPG99.5mmHg),mildAR,severeMR,severeTR,EF43%,E/e’18.34.hANP(2cc/h)静注開始.安静時BP134/82mmHg,HR112bpm Af,PVC散発(Lown分類grade2).46日目:リハ再開.体重53.0kg.自身での排泄回数の記録を追加する等,指導内容を修正.50日目:hANP終了.体重50.6kg.CTR59%.63日目:回復期リハ病棟へ転棟.体重47.7kg.T字杖歩行にて自室内身辺動作遂行.シャワー浴開始.69日目:自宅へ外泊練習実施.体重47.4kg. 97日目:疾患管理能力を獲得し,自宅退院.【考察】 日本循環器学会が提唱する慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)によると,日の単位で体重が2kg以上増加する場合は急性憎悪を強く示唆するとされ,体重測定は体内のうっ血状態を把握する有用な指標である.また,心不全患者の急性増悪の原因は,水分・塩分過剰摂取,不適切な服薬管理,過労といった不十分な疾患管理によるものが多い.今回,うっ血状態の指標として体重測定を行ったこと,入院時より心不全の病態,徴候について患者教育を行い疾患管理に対する意識向上を図ったことが,急性憎悪の早期発見に繋がったと考えられる.そして検査結果をもとに,指導内容をASやその他心機能に配慮した内容へ修正したことで,増悪を繰り返すことなく自宅退院に至ったと考えられる.【理学療法学研究としての意義】 回復期や維持期において心疾患患者に対する包括的リハビリテーションの需要が高まる一方,そのような報告は少ない.今後,急性期のみならず,回復期や維持期に従事する理学療法士が心疾患患者に対する認識と経験を増やし,包括的リハビリテーションの普及を進める必要がある.今回の報告はその一例として意義があると考える.

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© 2013 日本理学療法士協会
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